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どうでもいいことですが、今日は、このブログを書き始めてから2000日目に当たるようです。よく飽きもせずに…とも思いますが、次々と観たい作品が出てくるので、今しばらくは続きそうです。これから4本は、ホン・サンスつながりで、たまっている未見作品を追いかけようと思います。まずは、「アバンチュールはパリで <夜と昼> 」。

画家ソンナムは、米国人留学生と大麻を吸うが、それが露見、慌ててパリに逃亡する。8月8日。パリに到着、韓国人留学生ハウスの大部屋に腰を落ち着ける。8月13日。夜中1時、韓国に残してきた妻ソンインに電話しながら、我が身を嘆いて泣いている。翌朝、街角で10年前に別れた恋人ミンソンに出会う。8月16日。カフェでミンソンとコーヒーを飲んでいると、彼女の後輩ユジョンが通りかかる。ミンソンによれば、ケチで男好きで大嫌いな女だと言う。8月21日。ハウス主人に紹介された女子学生ヒョンジュに案内されて、オルセー美術館を訪れる。ヒョンジュは、例のユジョンのルームメイトだ。8月23日。ミンソンが訪ねてきて、二人はホテルに入るが、ソンナムはマタイによる福音書第5章を引用して、何もせずに別れる。8月26日。ヒョンジュとユジョンのアパートを訪れ、美術学校留学生だというユジョンの作品を観る…こうして、ソンナムの希望のない逃避生活は続いていくのだが…

画家ソンナムに、この作品くらいからアートな作品が多くなったように思えるキム・ヨンホ、美貌の美術留学生ユジョンに、恐らく『チャングム』で有名であろう正統派美形パク・ウネ、ソンナムの妻ソンインに、覚醒剤禍から復帰したファン・スジョン、韓国人向け留学生ハウスの主人に、渋いキ・ジュボン、ソンナムの昔の恋人ミンソンに、ちょっと妖艶なキム・ユジン、ユジョンのルームメイトのヒョンジュに、現地パリでオーディション合格したと言うソ・ミンジョン、北朝鮮留学生キョンスに、この後立て続けにホン・サンス作品に登場するイ・ソンギュン。

ほぼ全編がパリロケ、2時間半近い長尺ということで、一般的に云えば大作だと云えるでしょうが、物語自体は、うじうじした芸術家、嫌われ者の美術留学生、何かに苦しむ昔の恋人、そんな人々のだらだら・ごつごつした日常というだけで、いつもながらのホン・サンス節だと思います。ただ、小旅行はよく出てくるとしても、それがポンデザール(芸術橋)やオルセー美術館やカジノで知られる海辺の町ドーヴィルとなると、かなり雰囲気が変わりますし、焼酎ではなくワインで酔っぱらうとなると、これまた多少「らしくない」感じがしないではありません。ポスターにもぼんやり写るクールベ「世界の起源」、画家カン・ウンが雲を描いた絵画群、女流画家ホン・ポラムによるクールなイラストなどが醸しだす芸術的な雰囲気も、いつもよりはインテリな感じを強くしているように感じます。ホン・サンス監督に期待する観客の中には、多少お洒落に過ぎる、と感じる方も少なくないかもしれません。役者で云えば、ごつい体格ながら何処かなよなよした逃亡エトランジェを演じるキム・ヨンホは良く作品に馴染んでいますし、驚くほど美しく撮られていながら妙に空しい虚勢を感じさせるパク・ウネも好演でしょう。

この作品もご多分に漏れず損益分岐点を超えてないようですが、ほぼ全編パリロケなどという無謀なことが実現出来るのは、ギャラを削ってでも出演したいという俳優やスタッフがホン・サンス監督の下に集まってくるからなのでしょう。監督のお財布を心配させる、そんな愛すべき監督なのかもしれません。

それにしても、「アバンチュールはパリで」という邦題はいかがなものか、と思ってしまいます。タイトルだけに惹かれてホン・サンス監督作品に馴染みの少ない観客が観ると、言葉を選ばずに云えば、延々と子供の絵日記を読まされているような気になるかもしれません。レンタルされてはいますが、多少の警戒感を持って借りられる方がよいかもしれません。