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行き詰まったので「ホン・ギルドンの末裔」に戻って、ここ何本かはキム・スロ出演作品を追います。まずは、90年代の幕切れをアナーキーに彩ったあの名作の10年ぶりの続編、「アタック・ザ・ガス・ステーション! 2」。

夜の都会、ニ十数台のバイクが、暴走している。数台のパトカーが取り抑えようとするが、連中はすり抜け、S-Oilのガソリン・スタンドになだれ込む。そして、店を壊し、ガソリンや食料を略奪して、夜の街に消えていく。ある夜、三人の高校生が、そのガソリン・スタンドを狙っている。一人は、暴走族の襲撃の夜、店でバイトをしていた子だ。さらに可愛い女子高生も加わって、四人はガソリン・スタンドに殴り込むが、そこへ現れたのは、四人のチンピラ風用心棒従業員だ。ガソリン・スタンドのパク社長が相次ぐ襲撃に業を煮やし、腕の立つ連中を従業員として雇ったのだ。用心棒たちは、手もなく高校生たちを取り押さえ、彼らを餌に暴走族本体を呼び寄せ、壊滅しようと考える。そんな時、囚人たちに乗っ取られた護送バスが、ガソリン・スタンドに入ってくる。無理やり従業員として働かされている高校生は、間違って、軽油の代わりにガソリンを入れてしまう。護送バスは出発するが、しばらく走るとエンジンが停まってしまい、囚人たちはバスを押してガソリン・スタンドに戻ろうとする。こうして、パク社長、用心棒、高校生、暴走族、反乱囚人、囚人を追う警官隊などが入り乱れる、壮麗なスラップ・スティック乱痴気騒ぎの幕が切って落とされる…

ガソリン・スタンドの姑息なパク社長に、前作から引き続いての怪演パク・ヨンギュ。四人の用心棒には、拳が自慢のウォンパンチに、歌手出身の童顔二枚目チ・ヒョヌ、元サッカー国家代表ハイキックに、最近とみに演技の幅を広げているチョ・ハンソン、シルム(朝鮮相撲)の力自慢トゥルベジギに、愛嬌ある巨漢脇役ムン・ウォンジュ、口が達者なヤブリに、笑えるチョン・ジェフン。怪しい女性派遣業者に、名脇役クォン・ヨンウン、反乱囚人のボスに、これまた爆笑俳優パク・サンミョン、天然女子高生ミョンナンに、キュートなイ・ヒョンジ。友情出演では、ハーレイ男に、前作の縁でキム・スロ、エンドロールに登場するスター女優に、キム・ソナ本人。監督は、前作と同じキム・サンジン。

前作の感想には「暴力と破壊に彩られたきわめて非教育的な映画」と書いてますが、90年代だからこそ光るアナーキーな作品だと思っていたので、10年後に続編を作っても時代の風に合わないんじゃないか、としばらく手に取るのを逡巡していた作品です。ところが蓋を開けてみると、これが、上々の作品に仕上がっています。続編というより、むしろグレードアップしたリメイクという感じで、前作のキャラやギャグを巧みに踏襲しながらも、登場人物を大幅に広げることで、その群像劇風乱痴気騒ぎのスケールは、ぐんとアップしていると思います。缶飲料での城作りや体罰レスラーブリッジなどの繰り返しギャグも洒落ていますし、多くの登場人物を複雑に噛み合わせる手際も良く、練られたシナリオだと云っていいでしょう。四人の主人公が多少小粒になった感は否めませんが、若者に翻弄される小悪党パク社長を演じるパク・ヨンギュが相変わらずの怪演を見せていて笑えますし、ベテランのクォン・ヨンウンとパク・サンミョンが加わってどたばた度は厚みを増しているように思えます。拾い物は、歌番組のMCや歌手の経歴もあるイ・ヒョンジで、その天然女子高生ぶりは相当にキュートで、ひょっとしたら、コメディエンヌとしてブレイクするかもしれません。

「クニャン」という理由だけでの襲撃、といった哲学的な虚無感が姿を消していますし、主人公四人の過去のトラウマが今一つインパクトに欠けていたり、作品としての深みが10年を経てかなり薄まっている感じはあるものの、スラップ・スティック群像喜劇としては、十二分に楽しめる作品だと云えるでしょう。

ちなみに、エンドロールで流れる、オペラとも演歌とも聞こえる東海林太郎風の歌は、パク・ヨンギュの歌う「今日も堪える」です。笑えます。