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イ・ハヌィつながりで、100万人を集めながらも、お薦めするのを逡巡してしまうメディカル・サスペンス、「心臓が走る」。

英語塾を経営するシングルマザー、ヨンヒが車の中で祈りを唱えながら待っていると、臓器コーディネーターの車が近づいてくる。重い心臓病に苦しむ8歳の娘イェウンに適合するドナーが見つかったのだ。彼についていくと密入国のアジア人が待っていて、家族に金を送りたいので心臓を提供すると言う。その意味に気づいたヨンヒは、恐れおののいて逃げ帰る。借金まみれのチンピラ、フィドは、送迎車付きホステス派遣業で一(ヒト)山当てようと考えるが、先立つものがない。金持ちと再婚したという母親に金をせびるが、母親はこの金が最後で、米国に移民するからもう会わないと言う。ヨンヒは、娘イェウンにせがまれて人気グループのコンサートに連れて行くが、イェウンは倒れ、いつ心臓が止まってもおかしくないと宣告される。そんな時、フィドの母親が重い肝臓病で倒れ、昏睡状態に陥る。彼女の心臓がイェウンに適合することを知り、ヨンヒは彼女の夫に1億ウォンを支払うが、フィドの母親はまだ脳死判定に至っていない。義理の父親が1億ウォンを持ち逃げし、心臓移植が行われると知ったフィドは、母親を運ぶ救急車を乗っ取り、別の病院に連れていってしまう。適合する肝臓を見つけて、母親を救うつもりだ。こうして、ヨンヒとフィドの、後に退けない苛烈な戦いが幕を開ける…

英語塾経営者チェ・ヨンヒに、”LOST”出演でハリウッドにも知られるキム・ユンジン、チンピラのイ・フィドに、童顔の芸達者パク・ヘイル、フィドの恋人スヨンに、美形チョン・ダヘ、心臓病の8歳の娘イェウンに、巧いパク・ハヨン、フィドの母親アン・スッキに、ベテランのキム・ミンギョン、その内縁の夫に、脇役の方のチュ・ジンモ、怪しげな臓器コーディネーターに、名脇役キム・サンホ、後ろ暗い病院長に、大好きなカン・シニル、特別出演では、自動車チューニングショップ社長に、名優イ・ハヌィ。

重篤な病を患う二人の患者とその臓器移植をネタにした本作品は、はっきり言って、極めて不謹慎だと思います。一方で、サスペンスとしてあちこちで論理破綻していながらも、一旦見始めると絶対途中で投げ出させない魔力のようなものを感じさせるのも、また事実です。100万人を集めたそうですが、不愉快と思うか、悔しいながらも最後までスクリーンに見入ってしまうか、或いは、その両方か、それは観客に委ねられているということなんでしょう。患者の拉致合戦などというあり得ないシチュエーションに辟易しながらも、物語を追ってしまうのは、登場人物のほぼ全員が、その魂の一部を悪魔に売り渡しているような危うさを持っていて、それでいて弱っちい小市民であるという、容易に感情移入を許させない奇妙な人物造型にあるように思えます。またそれを、キム・ユンジン、パク・ヘイルが実に生々しく演じていますし、回りを、キム・サンホやカン・シニルやチュ・ジンモといった怪しげな役者が毒気たっぷりに演じているということもあるんでしょう。

途中のドロドロな展開から、いきなり、到底想像できなかった驚くほどスッキリした結末にもっていく腕前にも、何か謀(タバカ)られたような感じが残りつつ、何となく、100万人集めても仕方ないか、という妙な脱力感が尾を引く作品です。ともかく、自分の中でも、全く評価が定まらない作品です。ただ、観るのが、かなり危険な博打になることだけは確かだと思います。

全くの余談ですが、心臓病の少女イェウンがコンサートに行きたいと駄々をこねる人気グループは、KARAの妹分とも呼ばれる Rainbow (女性7人組) で、コンサート会場のシーンで本人たちもちらっと登場します。イェウンの病室のTVに彼女たちのMVが映るシーンがあって、 ”A" という曲なんですが、Youtubeで通して見ると、良い大人が見ても赤面するような煽情的な仕上がりです。8歳の少女が熱中するのはいかがなものか、と妙に老爺心が疼いたりします。