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もう一本「ガールフレンズ」からオ・ダルスつながりで、一見強烈なエロティック・コメディに見えて、実は…という五つ星、「フェスティバル」。

ソウル市マッポ(麻浦)区の中流住宅街、深夜1時。韓服店の女主人スンシム(シム・ヘジン)は、一人ミシンを踏み、金物屋主人キボン(ソン・ドンイル)は、作業場でバイクを修理する。スンシムの娘チャヘ(ペク・チニ)は、出せないラブレターを燃やした灰をつけておでんを食べ、移動おでん屋サンドゥ(リュ・スンボム)は、入念に姿見の角度を調整する。チャヘの担任クァンノク(オ・ダルス)は書に勤(イソ)しみ、警察官チャンベ(シン・ハギュン)と英語塾講師チス(オム・ジウォン)は体位のことで諍っている。折しも町では「安全で暮らしやすいソウル作り運動(안전하고 살기좋은 서울만들기 운동)」が展開されているが、スンシムは、金物屋の作業場で見つけた鞭にあらぬ欲望を感じ、チャヘは、校庭を走って汗をかいては下着を移動ポルノショップに売り、チャンベは、チスへの宅配便が大人のおもちゃであることを見つけ…住民たちの隠れた欲望と苦悩が、次第にその姿を表していく…

警察官チャンベに、特にチャン・ジンやパク・チャヌク作品で圧巻シン・ハギュン、英語塾講師チスに、ホン・サンスのようなアート作品でも魅力を発揮する演技派オム・ジウォン、韓服店女主人スンシムに、美貌の名女優シム・ヘジン、金物屋主人キボンに、『パリの恋人』以来小悪党はお得意ソン・ドンイル、スンシムの娘チャヘに、童顔美形ペク・チニ、移動おでん屋サンドゥに、もはや名優の貫祿リュ・スンボム、チャヘの担任クァンノクに、こちらももはや脇役とは呼べない貫祿オ・ダルス。特別出演では、ラストシーンで、キム・アジュンがニヤリとさせてくれたりします。

序盤から中盤にかけての余りに強烈な下半身系ギャグの数々は、下劣と呼ばれたとしても致し方なく、良識派を自認する観客なら眉をしかめるだけでなく途中退席するのも止むを得ない、と思わせるほどです。しかし、監督が、セクシュアル・マイノリティを温かく描いた名作「ヨコヅナ・マドンナ(天下壮士マドンナ)」共同監督の一人イ・ヘヨンだと知って観ていけば、おのずと見え方も変わっていきます。それは、S&M、短小強迫、人形偏愛、女装といった嗜好・苦悩をもった登場人物をラテックス・ボンテージやピンクのランジェリーに身を包んで熱演する錚々たる役者たちの見え方も変えるでしょう。その強烈な作風にも関わらず観終えた後に残る清々しさは、この作品が「個性を尊重する」という立ち位置から丁寧に作られた作品である、ということから来ていると思うのです。さらに、7人の登場人物の人生が、ちょっとした日常やテディベアや制服といった小道具を通じて微妙に関わり合っていく群像劇という作劇法を使っているのも、良く効いているでしょう。「私の生涯で最も美しい一週間」とか「私の恋」とか、この群像劇というジャンルも、韓国映画の優れたDNAの一つとして定着したと云っていいのかもしれません。

世の中に「常識」とか「ノーマル」といったものが存在すると仮定するならば、それをはるかに逸脱した作品と呼ばれるのは止むを得ないでしょう。しかしながら、劇中「ピョンテ(変態)」と蔑まれる性的少数者たちが演じるドタバタから感じるのは、監督や俳優たちの実に優しげな視線です。自信を持ってお薦めできる相手が限られてしまうのが現実だとしても、十分五つ星に値する優れた群像劇であるという事実は変わらないでしょう。

最近多いですが、このエンディング・テーマも、主演の7人によって歌われています。必ずしも上手だとは云えませんが、収録風景が思い浮かぶような楽しげな歌いっぷりは、この作品への役者たちの思いを感じさせ実に微笑ましいと感じます。