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まだまだ100万人超え未見シリーズが続きますが、名優ユ・ジテが「オールドボーイ」以来久しぶりに強烈なサイコを演じ、演技派女優スエが初めて挑む秀作ヘビー・サイコ・スリラー、「深夜のFM」。

人気のない漢江の河原を一台のタクシーが走る。助手席にはガムテープで口を塞がれ手足を縛られた若い女性が…そして、前夜放送された「真夜中の映画音楽室」の録音テープが流れる中、引きずり出された彼女を、タクシー運転手のナイフが襲う。元TVアナウンサーのソニョンがDJをつとめる人気ラジオ深夜番組「真夜中の映画音楽室」。幼い娘ウンスの失語症治療のため渡米する前夜、最後の放送を控え、送別会が開かれる。その後スタジオに向かったソニョンが、放送作家キョンヤンたちと放送の準備に取りかかる頃、シングルマザーであるソニョンが娘ウンスを預けている妹アヨンの家に、男が侵入し、アヨンと彼女の娘ヒョンジを縛り上げるが、不審に気づいたウンスは物陰に隠れる。そして、午前2時。「真夜中の映画音楽室」のオンエアが告げられ、ソヒョンは、「別れ」をテーマに「カサブランカ」”As Time Goes By”を1曲目に選ぶ。曲が流れる間に、ソヒョンは妹に電話するが、出たのは男で、家族を人質に取ったことを告げ、ある要求を突きつけてくる。こうして、2時間の恐怖劇が幕を開ける…

DJソニョンに、不良から令嬢まで広い芸域を誇る演技派女優スエ、強烈なサイコパス、ハン・ドンスに、短編映画監督としても実力を発揮する個性派名優ユ・ジテ、ゲストとして呼ばれたストーカー紛いのファン、トクテに、格闘技出身の肉体派マ・ドンソク、女性ラジオ作家キョンヤンに、KBSアナウンサー出身というのがちょっと皮肉な美形チェ・ソンヒョン、若いADに、「ゴーゴー70」のベーシスト、キム・ミンギュ、ラジオ・プロデューサーに、やくざや刑事はお得意のチョン・マンシク、ソヒョンの妹アヨンに、『ニューハート』『セレブの誕生』などドラマ畑のキュートなシン・ダウン、そして、ソニョンの喋ることができない娘ウンスに、「トラック」ユ・ヘジンの娘役など達者な子役9歳イ・ジュナ。

凄い役者だとは云え、スエにとって初めてのスリラーなので多少不安もあったんですが、一旦見始めると、最後まで一瞬たりとも目を離せなくなります。前作「ガールスカウト」がナ・ムニ、キム・ソナという最高のキャストにも関わらず多少期待外れだったキム・サンマン監督ですが、今回は、深夜2時から4時にかけて大体リアルタイム風に進む物語を恐怖で彩る手腕には目を瞠ります。生放送の使い方とかそのサスペンスの盛り上げ方が秀逸なんですが、個人的には、様々な映画を効果的に使うシナリオがツボで、特に序盤から中盤にかけ、「ストレンジャー・ザン・パラダイス」に始まり、「カサブランカ」「ピアニスト」「ポンヌフの恋人」、さらにはラジオDJが重要な役割を果たす「恐怖のメロディ」「グッドモーニング・ベトナム」「フィッシャー・キング」「トーク・トゥ・ミー」「今夜はトーク・ハード」といった一連の映画群、そして全体を貫く「タクシー・ドライバー」、といった数々の映画を散りばめる語り口が、いつのまにか我を忘れる素晴らしい仕掛けになっている訳です。当然、スエが見せる、才知、強靱、恐怖、絶望といった演技の幅に呆然となれますし、ユ・ジテが見せる、「オールドボーイ」で演じた知的な復讐犯とは異なる粗削りで狂乱するサイコ像に身の毛がよだつ思いもできますが、もう一人、子役イ・ジュナを挙げたいと思います。この映画の扇の要(カナメ)になる、恐怖に震えながらも必死で冷静に行動しようとする少女像が実に素晴らしく、この映画の最大の功労者と呼んでもそんなに異論は出ないでしょう。

見終わって冷静になってから思い返せば、多少なりと腑に落ちない所もないではないので、五つ星とするには逡巡したりもしますが、恐らく、目の肥えたサスペンス愛好家の期待にも十分に応えるであろう、100万人を悠々超えた秀作スリラーだと思います。

映画の中身にはあまり関係ありませんが、序盤、準備中の「真夜中の映画音楽室」放送ブースから、前番組を放送中の隣のブースが見え、司会者のトークに答えているのが、日本でもデビューした4Minuteのヒョナとチヒョンだったりします。2NE1とかBrown Eyed GirlsとかSecretとか、韓国ガールズ・グループに心酔中の1ファンとしては、嬉しい限りだったりします。