イメージ 1

 

「六穴砲強盗団」以来100万人越え作品を続けていますが、今回は、3500万ヒットを超えたとも言われるユン・テホのネット・コミックを原作に、「シルミド」のカン・ウソクが監督し、本年340万人を集めて大ヒットした傑作ミステリー、「苔 <黒く濁る村>」。

1978年。暴力刑事チョン・ヨンドクは、サムドク祈祷院の院長に頼まれ、不思議な力で信者を奪ったベトナム帰りの流れ者ユ・モッキョンの始末を頼まれ、逮捕し、拷問し、さらには獄中でも囚人に襲わせるが、モッキョンは何の抵抗もしないままに襲撃者の心までつかんでしまう。ヨンドクもその力を認め、とあるコミュニティ作りに、彼を誘い込む。30年後。鄙びた山村の片隅で、ユ・モッキョンが息を引き取る。ある事件に巻き込まれ仕事も家庭も失ったユ・ヘグクは、30年も顔を合わせていない父モッキョンの死を知らされ、山村に向かう。今は里長となっているチョン・ヨンドクや村人は彼を見て驚き、葬儀の場でも「いつ村を去るか」ばかりを気にする。ヘグクは、父親の荷物をまとめるまで、との約束で村の雑貨店の離れに落ち着くが、店の色っぽい女主人の寝室に、村人が代わる代わる訪れるのを見てしまう。さらに父親の不動産の動きにも不審な点を見つけ、彼の死因にまで疑問を抱いたヘグクは、村に住むことを宣言するが、大反対する村人たちをよそに、里長が認める…

元刑事の里長チョン・ヨンドクに、「シルミド」以来監督作3本目の演技派チョン・ジェヨン、謎の男ユ・モッキョンに、やはり「シルミド」で名演ホ・ジュノ、その息子ヘグクに、監督作は初めてながら素晴らしい演技パク・ヘイル、ヘグクと対立する検事に、最近ホン・サンス作品で光るユ・ジュンサン、暗い色気を漂わせる雑貨店主に、「鬘」「黒い家」などの美形ユソン、鍵を握る三人の村人に、「トラック」など既に主演作もある「元」名脇役ユ・ヘジン、年5~6本の出演が続きもはや準主役級キム・サンホ、迫力あるヤクザ役を得意とするキム・ジュンベ。村の警察署長に、チョン・ジェヨンと共にチャン・ジン作品常連のイム・スンデ、特別出演風の地検長に、カン・ウソク作品には欠かせないカン・シニルの顔も見えます。

間抜けな「韓半島」は別として、「公共の敵」シリーズ、「シルミド」と上質のエンタテインメントを撮り続けるカン・ウソク監督作ですが、ネット・コミックが原作との軽い印象など何処吹く風、素晴らしく重厚なミステリーに仕上がっています。この監督、凝ったストーリーを操ると云うよりは、強烈なキャラクターを自在に動かす作風だと思いますが、今回は、2時間40分にも及ぶ長尺ながら、一瞬たりとも緩まず、最後の最後まで全貌を見せないストーリー性が見事だと思います。有名な出エジプト記21章からの引用を、物語の背景と巧みにオーバーラップさせる辺りも文句無しでしょう。勿論、それを支える役者の魅力がこれまた完全無欠。鬘のため生まれて初めて剃髪したチョン・ジェヨンの70歳代の怪老人は完璧ですし、怪しげな三人の村人、ユ・ヘジン、キム・サンホ、キム・ジュンベも絶品、久しぶりに軽さを押し隠したパク・ヘイルの演技も上々でしょう。暗い過去を持つ美女ユソン、謎の能力を持つホ・ジュノも、他の役者では想像できない存在感だと思います。さらに、いつもながらの映画美術。舞台となる村の特別な存在感を出すため、何と、村まるまま製作。しかも、内部撮影も可能にしているので、部屋の中からの撮影で外の村の様子が見えるというリアルさには脱帽。これら、監督、役者、スタッフの徹底した職人技が、この全く緩む瞬間のない長尺に仕上げているのだと思います。

2時間半を越える長尺は「太白山脈」以来のような気がしますが、長い映画を見た、との印象が全く残らないのが、この映画の実力を示しているように思います。実は、祈祷院にまつわり多少理解できない、或いは理解したくない部分もあったりして五つ星にはしませんが、韓国映画では珍しく早くも今週末には、「黒く濁る村」のタイトルで大都市公開が始まりますので、禁煙グッズを忘れずに観に行くこともありかもしれません。