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もう一本つながり無視の、季節外れのサスペンス・ホラー、「不信地獄」。

ソウル。姉ヒジンは、風邪をおして、大学、家庭教師やコンビニでのバイトに疲れ果て、深夜部屋に帰ってくるが、寝つく間もなく、13歳の妹ソジンからの電話に起こされる。妹の電話は「大丈夫?」の一言で切れるが、翌朝早く、今度は母から「妹が失踪した」との電話がある。ヒジンは慌てて、ソヘアン(西海岸)高速道路を高速バスで実家のアパートに向かうが、母は、警察にも知らせず、ただ「一緒に祈ろう」と言うばかり。ヒジンは警察に通報するが、やって来た、娘が重い病気を持つ刑事テファンは、家出と決めつけ真剣に取り合わない。そんな時、307号室に住む27歳のチョンミが首を括り屋上から飛び下り、1308号室のヒジンの目の前にぶら下がる。ヒジンは必死で助けようとするが、チョンミは落下して息絶える。チョンミの部屋からは、お守り札に書かれたソジンに詫びる遺書が見つかるが、さらに次の犠牲者が…

姉ヒジンに、映画では初めてのトップロールでホラーは「霊(リョン)」に次いで2本目美形ナム・サンミ、事件に翻弄される地方刑事に、大ファンで映画では遅咲きの名優リュ・スンニョン、神懸かりの妹ソジンに、「ヘンゼルとグレーテル」から連続2本目のホラー出演でドラマ『ファン・ジニ』少女時代などの名子役から脱皮しつつある15歳シム・ウンギョン、キリスト教に心酔する姉妹の母親に、やはりドラマ『ファン・ジニ』のメヒャン(梅香)役が印象的なキム・ボヨン、同じアパートに住む菩薩を自称する怪しげな巫女に、本職は演劇のムン・ヒギョン、ベトナム戦争帰りのアパート警備員に、演劇俳優でミュージカルや「NANTA」でも知られるイ・チャンジク、隣室1307号室の住人に、やはり演劇女優で「7級公務員」でもリュ・スンニョンと共演チャン・ヨンナム、最初の犠牲者チョンミに、「素晴らしい一日」などのキュートなオ・ジウン。特別出演では、刑事の妻に、美貌のシン・ウンジョン、病気の娘に、こちらはリュ・スンニョンも出演の映画「ファン・ジニ」少女時代を演じた天才子役キム・ユジョン。

ストーリー自身は、そんなに目新しいとは思えませんが、韓国ホラーらしく雰囲気作りが抜群だ、と云えるでしょう。ストーリーは、憑依によって治癒能力や予知能力を持ってしまった少女を中心としていますが、その回りで蠢く醜い人間関係を丹念に描くことで重苦しい奥行きを感じさせますし、さらに、キリスト教とシャーマニズムという韓国では根強い宗教の彩り、お守り札・部屋の鍵といった洒落た小道具、どこか歪んだ各住人の部屋を作り上げた映画美術の見事さ、とかもあって、ホラー映画というよりも、ゴシック小説の趣の方が近いと感じます。役者も見事で、事件に翻弄されるナム・サンミとリュ・スンニョンは実に自然ですし、狂信的なキム・ボヨンや、何処か怪しげなアパートの住人や警備員を演じるムン・ヒギョン、チャン・ヨンナム、イ・チャンジク辺りも良く物語の雰囲気を作り上げていると思います。ただ、恐らく、最後の子役作品、もしくは、子役卒業後初の作品、と呼ばれるに違いないシム・ウンギョンが、憑依された少女ということで、演技力を発揮する場面がそんなに多くなかったのは残念ですが、さすがの存在感は見事だったりします。

怖いというより、残酷な、或いは、尾籠なシーンが多かったりもしますが、シフン(始興)市で見つけたという舞台になるアパートの外見も一見ありふれていながら何処か歪んだ感じが見事だったりして、雰囲気たっぷりのサスペンス・ホラー佳編だと思います。

ちなみに、タイトルの「不信」は、「不信心」の意味での「不信」で、己の欲望に身を任せ神を信じることを忘れることを意味すると思われます。