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ついに「つながり」無視の、歴代4位1千100万人を集めた、知る限り韓国初のパニック映画、文句なし五つ星、「ヘウンデ(海雲台)」。

2004年クリスマス、結果的に20万人を超える被害者を出したスマトラ沖地震による津波の最中、遠洋漁船の船長マンシクは、自分を一人前にしてくれた、瀕死の重傷を負った先輩船員を救えず、彼を船に残して救助される。マンシクは、その事故をきっかけに、船を降り、女子高生の頃から知っている先輩の娘ヨニへの思いを封印し、一人息子スンヒョンと暮らしている。国際海洋研究所の地震学者キム・フィは、日本で頻発する地震の情報から、巨大津波の発生に備えるべきだ、と警告するが、誰も取り上げない。そんな彼の前に、「ヘウンデ文化エキスポ」のディレクターとして、別れて渡米した元妻ユジンが、彼を父とは知らない娘チミンを連れて現れる。海難救助隊に勤めるマンシクの弟ヒョンシクは、クルーザーから転落したソウルのイファ(梨花)女子大に通う金持ち娘ヒミを、救い上げる。その後、ヒミは、奇天烈な行動でヒョンシクにつきまとう。地元の名士でマンシクの叔父オクチョは、ミポ(尾浦)を新たなゴールデン・ビーチに再開発しようとして、地元民の反感を買っている。そんな彼らに、次第に、運命の時、8月16日2時30分が近づいてくる…

元漁師マンシクに、韓国で三本の指に入る名優ソル・ギョング、彼が思いを寄せるヨニに、TV・映画で常に喝采を浴び続ける名女優ハ・ジウォン、地震学者キム・フィに、知る限り初めてのインテリ役に挑むベテラン演技派パク・チュンフン、その元妻ユジンに、こちらはインテリ役でもお手のもの名女優オム・ジョンファ、海難救助隊員ヒョンシクに、ここ1~2年ですっかり主演俳優の貫祿が出てきたイ・ミンギ、彼につきまとう不思議娘に、かつてはそのビーナスのように美しい全裸を見せたこともあるカン・イェウォン、マンシクたちの幼なじみに、とにかく巧いキム・イングォン、名士オクチョに、TVでお馴染みのおじさんソン・ジェホ、マンシクたちの母親に、とにかく迫力キム・ジヨン、マンシクの息子スンヒョンに、これが映画デビューの子役チョン・ボグン、ユジンの娘チミンに、こちらは5歳の時から既に4年のキャリアを持つ美少女子役キム・ユジョン。

ヨニの営む小さな食堂の名前「琴兒膾店(クムア刺身屋)」が、この映画のテーマを如実に表しています。「琴兒(クムア)」は、「マイ・ブラザー」など度々映画にも登場する、日本人朝子との思い出を綴った「縁」で知られる名随筆家ピ・チョンドク(皮千得)の号で、まさしく、この映画のテーマが「縁」であることを示しています。ただでさえ群像劇にはメチャメチャ弱い上に、「大空港」とか「タワーリング・インフェルノ」とかさらにパニックの要素を加えた作品にはゾッコンなんですが、観る前のハリウッドの十八番(おはこ)パニック映画に挑むなんて、という懸念は、あっと云う間に霧散する傑作だと思います。父子家庭、離婚夫婦、道楽娘、再開発、といった様々な人々の釜山での日常風景を丹念に描く前半は、実に映画の半分以上を占め、それだけでも見応えがある上に、彼らが大災害の中でどう生き抜こうとしたか、を描く後半を実に巧みに見事に盛り上げています。演技陣は、感想を書くことがないくらい、完璧なんですが、強いて書くなら、キム・イングォンとカン・イェウォンでしょうか。キム・イングォンは、出来の悪い、性格の悪いプータローを嬉々として演じながら、前半のみならず、後半のパニック・シーンでも、そのコミカルな演技で、映画に例えようのない妙味を与えていますし、カン・イェウォンの弾けた女子大生は、「恋人たちの予感」のメグ・ライアンを思わせる名シーンを見せたりして、これも記憶に残る名演でしょう。さらに特撮では、当然、スペクタクルなCGも使われていますが、CGだけに頼るのではなく、数多くの実写スタント・シーンを挟み込むことで、最近のハリウッド・パニックものにはあまり感じられない生々しい恐怖感を与えているところも見逃せないと思います。

勿論、歴代名パニック映画からの借り物といったシーンがないと云うつもりはありませんが、同じく1000万人を超えた「グエムル」が、質の高い怪獣映画の姿を借りながら家族愛を描ききったように、この作品も、質の高いパニック映画の姿を借りながら「縁」に操られる人間模様を描き切った傑作群像劇だ、と云いたいと思います。

必ずしも映画の主題とは云えませんが、ワイキキ・ビーチの景観によく似た観光客で埋めつくされるヘウンデ・ゴールデン・ビーチとか、やはり観客で埋めつくされるイ・デホ(李大浩)も登場するサジク(社稷)球場とか、美しいカンアン(広安)大橋や、そのライトアップされた絶景を見渡すイギデ(二妓台)とか、釜山の名所がてんこ盛りなので、それはそれで、行きたくなること必至だ、と思わせたりもします。

そうそう、昨夜、この作品でも実写として使われた、壮麗な釜山花火大会が開催されています。