イメージ 1

 

つながりから外れますが、五人の名匠の手による、エロスを題材にしたオムニバスの傑作、「オガムド」。


第1章 <His Concern>

仕事で釜山行きKTXに乗った男は、向いに座った美脚の美女から目が離せなくなる。しかし、彼女は、チョナン(天安)で降りると云う。チョナン駅に着くと、男は、衝動的に彼女を追って列車を降りてしまうが…

監督は、「インタビュー」「スカーレット・レター」のピョン・ヒョク。男に、二枚目演技派チャン・ヒョク、美女に、『快刀ホン・ギルドン』などで日本にも知られる美形チャ・ヒョンジョン。特別出演では、男の兄夫婦に、後のエピソードでは主演のキム・スロと、印象的な脇役キム・ナンフィ。

主にチャン・ヒョクのナレーションによって語られる男の本音を背景に、列車で偶然出会った美女との顛末を、軽やかに描いています。

第2章 <私、ここにいます。>

仕事から帰ると若妻の姿が見えない。焦る若い夫は、家中を探す…そんな「かくれんぼ」を毎日繰り返す、結婚間もない幸せそうな若夫婦。しかし二人には、哀しい宿命が…

監督は、「八月のクリスマス」の巨匠ホ・ジノ。若い夫に、最近主演が続くキム・ガンウ、若妻に、こちらも主演が目白押しで映画界で最も期待される新星チャ・スヨン。

巧い、の一言。台詞を極限まで切り詰め、自然でいながら緊張感一杯の二人の演技だけで、「裸の相手に抱かれている時が一番幸せ」という、深く愛し合いながらも、余りに切ない若夫婦の宿命を描きます。

第3章 <33番目の男>

天才変人監督が、ベテラン女優と新人女優を使い、エロティック・ホラーの撮影が真っ盛りの映画スタジオ。新人女優の悲鳴が気に入らない監督は、100回を超えるテイクを命じ、ベテラン女優も次第にキレてくる。その夜、新人女優は、ベテラン女優の部屋を訪ね、演技指導を懇願するが…

監督は、「アナーキスト」「20のアイデンティティ(靴のエピソード)」のユ・ヨンシク。激しいベッドシーンを見せるベテラン女優に、見事な演技派ペ・ジョンオク、新人女優に、「美人図」では美しい裸体を見せたキム・ミンソン、変人監督に、知る限り初めてラブシーンを見せる叩き上げの名優キム・スロ。

女優二人が醸しだす妖しいムードと、スッとぼけたキム・スロの魅力が、実にマッチしたホラー風味耽美派ショートの秀作です。

第4章 <終わりと始まり>

路肩に止めた車で、激しく愛を交わす男と愛人。そこに、トラックが突っ込んでくる。夫に先立たれた妻の家に、大怪我を負いながらも一命を取り留めた愛人が転がり込んでくる。夫の亡霊も現れ、狂乱していく妻だったが…

監督は、「少女たちの遺言」「私の生涯で最も美しい一週間」「西洋骨董洋菓子店アンティーク」の名匠ミン・ギュドン。残された妻に、名演が続くオム・ジョンファ、死んだ夫に、名優ファン・ジョンミン、愛人に、TV・映画でお馴染みキム・ヒョジン。

ありがちな不倫の悲劇のように見えますが、激しいベッドシーン、猥雑な緊縛シーンなどを交えながらも、さりげなく幽霊である夫が登場したり、手品が巧みに使われたり、全般にシュールでエロティックな秀作に仕上がっています。特に、混乱し狂乱していくオム・ジョンファは絶品でしょう。

第5章 <瞬間を信じます。>

3組の高校生カップルが、デートに出かける。それぞれお似合いではあるが、どこかぎこちなく、不自然な雰囲気が漂う。彼らは、異なる場所で、それぞれの関係を結んでいくが…

監督は、「ラスト・プレゼント」「ナンパの定石」のオ・ギファン。第一のカップルは、「コーヒー・プリンス1号店」で人気のキム・ドンウクと『花より男子』の悪役で日本でも知られる美形イ・シヨン、第二のカップルは、モデル出身の二枚目チョン・ウイチョルと「シンデレラ」の美少女シン・セギョン、第三のカップルは、「霜花店」など人気上昇中の二枚目ソン・ジュンギと歌手イ・スンギュの娘で美貌のイ・ソンミン。

在り来りな3組のデート風景を追いかけているだけのように見えて、何とも云えない違和感・不安感が漂う演出は見事。ひょっとしたら2度見ないと、面白さは伝わらないかもしれません。大胆なベッドシーンを見せるシン・セギョンを始め、若手演技陣の魅力も炸裂しています。


エロスという言葉に過剰な期待を抱くと後悔することになるかもしれませんが、素晴らしい監督に素晴らしい役者が揃った、最高級のオムニバスだと思います。それぞれに、違った角度から、男女の、一部は、女女の、切実で、妖しく、或いは、不可思議な関係が、優しさや皮肉をたっぷり含んだ語り口で描かれる様は見事です。

ちなみに、「オガムド」というタイトルは、「オガム」が「五感」であることは明らかですが、「ド(도)」の意味が不明です。「図」「度」を充てる方もいますが、「も (also)」の意味が何となくしっくりする感じです。