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フランス小咄風に云えば、コキュ(間男された夫)を巡る、シュールなブラック・コメディ、「妻の愛人に会う」。

一カ月も雨が降らない灼熱の夏。江原道の海沿いの町ヤンヤン(襄陽)で小さな印鑑屋を営む風采の上がらぬ夫は、妻が浮気をしていることを知り、バスでタクシー運転手の間男が住むソウルに向かう。間男の自宅近くで、彼のタクシーを呼び止め、ナクサン(洛山:襄陽の海水浴場や寺で有名な地名)と行き先を告げ、コキュ夫と、そうとは知らず長距離客を喜ぶ間男の不思議なドライブが始まる…

コキュ夫に、演出家でもあり個性的なバイ・プレーヤーでもあるパク・クァンジョン、二枚目間男に、『商道』等々ドラマでは常連で「おぉ!スジョン」「誰にでも秘密はある」とかのチョン・ボソク。ちなみに、二人とも61年光州生まれ。間男の妻に、「無分別な妻、波瀾万丈な夫、それから太拳少女」以来久しぶりにそのスレンダーな裸体を見せる『パリの恋人』ヤンミ役とかで知られる個性派チョ・ウンジ、激しい濡れ場を見せるコキュ夫の妻に、舞台俳優キム・ソンミ。特別出演では、間男を乗せてソウルに向かうタクシー運転手に、「グエムル」とかの名脇役オ・ダルス。

パク・チョルス監督の癖球「家族シネマ」の助監督だったキム・テシク監督が描く、ソウルとナクサンを行き来する物語のベラボーに面白いこと。コキュ夫と間男という怪しい関係の男二人の旅を描くロード・ムービー風シナリオは、車が故障して、バドミントンをして、全裸で滝壺を泳いで…とかとか変なシチュエーションの連続の上、給油所襲撃、西洋人サイクリング・ツーリスト、西瓜、捕鯨反対のデモ、とかいったストーリーに関係あるとはとても思えないシュールな小道具の連射が色を添え、不思議で強烈なカタルシスを産み出します。演者もものすごく達者で、「シバル」と彫った判子を持ち歩くコキュ夫、全裸の太極拳を見せ「世に不倫はない、あるのは愛だけ」と豪語する間男、夫の浮気を酒で紛らわし下手な歌を歌う間男の妻、といった怪しい人間像をケレンミたっぷりに演じるパク・クァンジョン、チョン・ボソク、チョ・ウンジの三人がこれまた絶品です。

日本でも映画祭や単館で公開されてるのでご覧になった方も多いでしょうが、恐らく、反応は両極端に割れたと思われます。くさやのひものみたいに、好きな人には堪らない味わいを出しますが、ダメな人にはとことんダメ、って感じでしょうが、個人的には、男女四人のすれ違う愛と欲望の迷宮を描く秀作ブラック・コメディと呼びたいと思います。

余談ですが、映画自体には現れないものの、この映画、日本との関わりがかなり深く、キム・テシク監督は日本留学経験があり、パク・クァンジョンは平田オリザと日韓合同公演「ソウルノート」を共同演出してますし、プロデューサーに高橋松男、霜村裕の名前が見えたりします。そんなこともあって、遠からず日本版DVDが出ることを期待したいと思います。