イメージ 1

 

韓国映画界で最も尊敬する二人の共演、ある意味怖くて今日まで見られなかった、勿論五つ星、「熱血男児」。

とある事情から組織を離れて兄貴分の仇を狙うヤクザは、新米ヤクザを連れて、仇の故郷ポルギョ(筏橋)に向かう。そこでは、仇の老母が一人で粗末なクッパ屋を営んでおり、死んだと伝えられる南氷洋で行方不明になった次男に、色々な物を送り続けている。仇を待つため老母に近づいたヤクザは、その店でクッパを食べ、老母と罵り合いながらも、次第に心を通わせていく。ある事件をきっかけに、老母は、ヤクザが長男を狙っていることを知るが、決行の日と決めた第23回ポルギョ(筏橋)町内体育大会の日は次第に近づき、仇もその姿をポルギョ(筏橋)に現す…

ヤクザに、韓国随一の名優ソル・ギョング、仇の老母に、韓国映画界で最も好きな女優ナ・ムニ、テコンド-の名手で新米ヤクザに、驚くほど名演イケメンのチョ・ハンソン、仇には、最近芸域を広げますます楽しみなユン・ジェムン、ヤクザの殺された兄貴分には、凄い貫祿を見せ最近出ずっぱり遅咲きの名優リュ・スンヨン、組織の大ボスに、キム・ジュンベ、不思議なタバンのホステスに、「ネギをサクサク、卵をポン」とかのキム・ジナ改めシム・イヨン、里長に、やはり最近出ずっぱり名脇役チョ・ヒボン。

とにかく、二人の演技です。まず、ソル・ギョングの、粗暴で教養のないヤクザ振りの素晴らしい事。かつて市川雷蔵が見せた剃刀のような殺し屋としての怖さと、スケベなマヌケ振りの使い分けの巧さは讃える言葉も見つかりませんし、さらに輪をかけて、ナ・ムニが凄い。いつもながらの下品で威勢の良い啖呵はそのままに、ヤクザと長男と次男への思いの間で揺れ動く母親の姿を、正視出来ないくらいの演技で見せていて、鳥肌が立つ程です。特に、ラムサール条約対象と登録されたポルギョ(筏橋)干潟を背景にしたシ-ン、そしてラストシーン、の二人芝居は、恐らく韓国映画史上に残る名シーンとなるでしょう。この二人の名演だけでも充分な所に、売りがそれだけではない所が、また、この映画の素晴らしい所で、チョ・ハンソンのこれまでのイメージをかなぐり捨てた粗削りな新米ヤクザ振り、ユン・ジェムンの恐ろしいほどの存在感、さらには、ポルギョ(筏橋)のひなびた風情に、全く大義も仁義も関係のない無意味な殺し合いを中心にしたシナリオ、まで含めて、二人の名優の演技を軸にしたこの映画の完成度には、文句の付けようがないと思います。

製作された順番からすれば、次作「あいつの声」でもナ・ムニが特別出演として共演していると云えなくもありませんが、是非とも再度素晴らしいシナリオ作品で共演して欲しい、これほどテンションを感じる共演は残念ながら他では考えられない、そう感じさせる出来ばえです。機会があれば、是非ご覧頂きたいと思います。

ちなみに、ポルギョ(筏橋)は、イム・グォンテク監督の大傑作「太白山脈」で朝鮮戦争による悲劇の舞台として描かれた全羅南道の小さな地方都市です。