イメージ 1

 

全羅北道の地方町を舞台に、人々の哀歓を穏やかに描く叙情佳編、「青い自転車」。

閉園間近な動物園で象の世話をする、右手が不自由な青年。次の仕事もなかなか決まらず、恋人との結婚も暗礁に乗り上げ、父親の病気も重く、酒を飲んで荒れる日々が続く。そんな時、美しいピアノ教師と出会うが…

青年に、長身で驚くほど端正なヤン・ジヌ、美しいピアノ教師に、『1%の奇跡』『銭の戦争』キム・ジョンファ、自転車屋を廃業してバスの運転手をする青年の父親に、今回もやっぱり間寛平にそっくりな名脇役オ・グァンノク、母親に、「麻婆島」シリーズの婆さんでは一番若手だったキル・ヘヨン、象の飼育係の先輩に、これまた味わい深いクォン・ビョンギル、青年の恋人に、つまらない『エアシティ』の中でコケティッシュな国家情報院エージェントを演じて唯一光っていたパク・ヒョジュ、青年の元同級生に、「許されざるもの」で予感した通り名脇役の道を邁進するイム・ヒョンソン。

非常に切なく心地よい映画ですが、まず愚痴を二つ。まず、配役。ヤン・ジヌとキム・ジョンファは、ソウルの一番お洒落なスポットでも目立つくらいスタイリッシュな容貌なので、演技は素晴らしくはありますが、さすが田舎町でのこの役回りにはかなり違和感があります。そして、演出。全体に真摯で柔らかな雰囲気が素晴らしいのですが、二三箇所、筆が滑ったかのように、わざとらしさが過ぎる演出があって、個人的には引いてしまった所があります。例えそうだとしても、素晴らしい作品に仕上がっていることには間違いありません。特に青年の家族の描写は見事で、青年に胸を張って生きることを常に教えようとする小学校卒の父親、人知れず息子のことで苦悩する中学校卒の母親、健気に弟のことを思いやる姉、少しわがままな妹、といった家族を、疎外感を抱く青年と病の父親を軸に描く目線には、まれに見る優しさが漂います。また、役者も素晴らしく、特に父親演じるオ・グァンノクの演技は、口数少ないながら、凄味といってもいい存在感が溢れていて絶品です。

青く塗られた自転車、針金細工の象、サルビア、家族写真といった小道具も、一部を除いて、切ない青年や周りの人々の心象風景に巧く馴染んで、とても初監督とは思えない出来ばえです。最近の激しい映画に比べれば、派手さは全くといって云いほどありませんが、主なロケ地である、世界遺産のある町、全羅北道コチャン(高敞)の自然溢れる風情も素晴らしい、切なく心地よい叙情佳編と云えるでしょう。