イメージ 1


巨匠イム・グォンテクが朝鮮戦争を描く、「証言」。

朝鮮戦争休戦20周年を記念して制作された国策巨編。1950年6月25日。休暇中の陸軍中尉と美しいフィアンセの女子大生は、漢江べりのデートを楽しんでいたが、そこへ、突然爆音が響いてくる。朝鮮戦争の始まりであった。中尉はすぐに帰隊、女子大生はソウルに残るが、三日後人民軍がソウルを占拠したため、恐怖と絶望に満ちた慶尚北道テグ(大邱)への避難行を始める…

主人公の女子大生に、近年「盗られてたまるか」で少し顔を見せた何処かキム・ヘス似のキム・チャンスク、許婚者の中尉には、この後もイム・グォンテクやペ・チャンホ作品で活躍する男臭い二枚目シン・イルリョン。ちなみに、TVでおなじみのイ・スンジェやチェ・ブラムがクレジットされてますが、何処に出たか分かりませんでした。

さすがに陸海空軍が全面協力した国策映画だけあって、実際の戦車やF-80ジェット戦闘機、あるいは、大エキストラを動員し、大量の火薬を使用したスペクタクルシーンの迫力は並ではありません。ただ、ミニチュアを使ったシーンは、時代のせいか、さすがにちゃっちい感じは免れず、F-80のドッグファイトなどはマグマ大使かと思ったくらいです。それよりも何よりも、この映画の見どころは、女子大生の避難行の描写でしょう。何度も大量虐殺の地獄絵図を目の当たりにし、死んだ兵士の食物を食べながら、と悲惨な描写の連続ながら、人民軍に捕らえられたり、人間性に目覚めた人民軍兵士と出会ったり、ある少年義勇兵と因縁を結んだり、人民軍将校に変装したり、と、悲惨なだけでなくドラマ性をも兼ね備えた演出は、さすがにイム・グォンテクだと思わせます。

個々のエピソードがどれぐらい歴史に忠実なのかは判断できませんが、時折流れる女子大生によるナレーションを除けば、映画自体にそれほどプロパガンダ臭はなく、むしろ冷徹な視線で描かれている、と云えるような気がします。ちなみに、映画は、戦争勃発、ソウル陥落、洛東江反撃、仁川上陸、ソウル奪還、韓国軍の38度線越境、と最初の三カ月余りを描いているだけで、その後、中国共産軍の参戦、敗走、38度線での膠着、と戦争はさらに続くことになります。