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名優ソン・ガンホが「ナンバー3」以来10年ぶりにヤクザに扮する、「優雅な世界」。

建設関係を得意とする中堅ヤクザは、私生活では家族愛と責任感あふれる普通のオヤジ。水の出が悪いノリャンジャンの安アパート、ヤクザ稼業を嫌う思春期の娘、カナダ留学中の息子への仕送り、と家庭でも悩みが多い上、仕事では、手柄を狙う会長の弟との確執にも頭が痛い。そんなある日、コンビニで三人のチンピラに命を狙われたことをきっかけに、人生が狂い始める…

主役に、名優ソン・ガンホ、妻に、『土地』など18年の芸能生活で初の銀幕パク・チヨン(「時間(絶対の愛)」パク・チヨンとは最後の「ン」が異なる別人)、思春期の娘に、「フライ、ダディー」でイ・ムンシクの娘を演じた美少女キム・ソウン、会長の弟であることを笠に着るNO.2に、「卑劣な街」でも似たような憎々しい役柄が好演のユン・ジェムン、幼なじみで敵対する組のヤクザに、「大統領の理髪師」「グエムル」とソン・ガンホとは馴染みの深いオ・ダルス。ちなみに、監督は、不思議な「恋愛の目的」ハン・ジェリム、ノスタルジックでアイロニーの香り豊かな音楽は、アニメ、ゲーム、映画の音楽で知られる菅野よう子。

「卑劣な街」も日常の目線で描かれた優れたヤクザ映画でしたが、さすがソン・ガンホ、ヤクザと普通のオヤジの曖昧な境目を絶妙に演じていて、独特のペーソスにあふれた作品に仕上がっています。特に前半、娘の担任への賄賂として高級サロン招待券を渡したり、娘の日記を盗み見してヤケ酒飲んだり、カンナム(江南)への引っ越しを夢見て不動産巡りをしたり、と絶妙のヤクザオヤジ振りを見せてくれます。後半は、多少ノワールな色合いが強くなったりしますが、パク・チヨン、キム・ソウンの夫・父親とのあやうい間合いの演技も素晴らしく、最後まで不思議なバランスを保っていると云えます。

少しネタバレですが、ヤクザものにはありがちな、主人公を死なせることで物語を清算するような道を選ばなかった、癖玉を得意とするハン・ジェリム監督とソン・ガンホの二人舞台のようなエンディングも秀逸で、それだけでも、名作と呼んで差し支えないと思います。ただ、ソン・ガンホが余りに自然で巧いので、下手をすると、ヤクザを是認してるのでは、と取られかねないと思えるのが杞憂であればいいんですが…