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チョ・ソギョンつながりで、「あいつの声」。

1991年1月29日ソウルのアックジョン(胛鴎亭)で発生し、昨年1月公訴時効が成立した、イ・ヒョンホ誘拐事件をモチーフにした実録風犯罪ドラマの秀作。「犯罪との戦争」を宣言したノ・テウ(盧泰愚)大統領の1991年夏。人気ニュース・キャスターは、美人の妻と、ちょっと太めの息子と幸せに暮らしていたが、ある夜、息子が帰って来ず、代わりに1億ウォンを要求する脅迫電話がかかってきて、悪夢の44日間が始まる。父親は金で解決しようとするが、母親は恐怖に耐えきれず警察に通報する。ナムサン・ケーブルカー乗り場で身代金を渡すことに成功するが、息子は帰って来ず、さらに、1億ウォンを要求する電話がかかってくる…

父親に、名優ソル・ギョング、母親に、銀幕2本目一昨年のキム・スンウとの結婚が記憶に新しい美形キム・ナムジュ、犯人の声は、カン・ドンウォン、父親に密着する刑事に、「甘い人生」悪役でNステ若林正人にそっくりなキム・ヨンチョル、班長に、「Nowhere」ソン・ヨンチャン、女刑事に、「ピンクの靴」コ・スヒ、声紋分析官に、「Lies」チョン・ヘジン(チョン・イダ)。チョ・ソギョンは、刑事の一人。

これは辛い映画です。特に、余りに生々しいソル・ギョングとキム・ナムジュの演技は、2時間耐え難い程ですし、さらには、憎むべきは犯人であるにも関わらず、日が経つにつれ、夫、妻、刑事、妻が通う教会関係者、それぞれの間に走る亀裂と衝突を微細に描いている所も、凄まじく重い感覚をもたらします。

映画は本来エンターテインメントであるべきだ、と信じる者からすれば、果たしてこれが映画と呼べるか、はなはだ疑問を抱いてしまいますが、監督インタビューの「商業主義的と疑われても、映画の最終目的(犯人検挙)を考えれば、論議を呼ぶことも必要だ。」との発言から、この映画は、逃げ延びている犯人を捕まえることが最大の狙いで、それが、観客を怒りと絶望の渦に巻き込むよう作られている理由だと分かります。さらに同じインタビューで、「誘拐された子どもが発見される時までの様子を描かない」「犯人の行動を想像しない」「両親の心情を歪曲しない」という三つの原則を徹底させた、とのことですが、この姿勢が、これまでの誘拐サスペンス映画にはない、絶望や恐怖に満ちた重苦しい力を産み出しているのは、間違いないでしょう。

決して映画としてお薦めする気にはなりませんが、悲惨な事件は二度と起こさせない、という映画人たちの切なる叫びが十二分に伝わってくると云う意味で、秀作だと云わざるを得ないと思います。