イメージ 1

 

パク・トンビンつながりで、「ブラザーフッド<太極旗を翻して>」。

1200万人の観客を集め、「王の男」「グエムル」が現れるまでは堂々の歴代トップに君臨していた、朝鮮戦争の悲劇を痛切に描く秀作。言葉の不自由な母親、仲のよい弟、美しい許嫁に囲まれ、靴屋になる夢を持つ貧しいソウルの青年は、1950年朝鮮戦争が始まり、疎開途中のテグ(大邱)で弟と共に徴用され、否応なく戦争に巻き込まれていく。弟を除隊させたいとの思いだけで、釜山近郊ナクトンガン(洛東江)の戦いで鬼神のような働きを見せた兄は、インチョン(仁川)上陸作戦の成功に乗じて、ピョンヤン(平壌)まで攻め返し、雪が降り始め、統一も間近と思われた時、弟を除隊させることが出来る念願の「太極武功勲章」を得る。しかし、弟は帰らないと云い、しかも、そこへ10万の中国共産軍が押し寄せてくる…

兄に、チャン・ドンゴン、弟に、ウォンビン、という四天王の二人、美しい許嫁に、今は亡きイ・ウンジュ、小隊仲間に、コン・ヒョンジン、アン・ギルガン、パク・キルス、年老いた弟に、待ち遠しい「千年鶴」チャン・ミノ、その孫娘に、『白雪姫』変な日本人キュートなチョ・ユニ、監督前作「シュリ」からは、テロ軍団チェ・ミンシク、キム・スロ、パク・トンビンの三人が友情出演してたりします。

思想とか信条とは全く別の次元で戦争に巻き込まれる兄弟の悲劇は、あたかもシェイクスピア劇を見てるかのように重厚ですが、そのいささか劇的に過ぎると思われたりもする物語に生々しいリアリティを与えているのは、韓国版「プライベート・ライアン」と呼ばれるその戦闘シーンの凄まじさでしょう。ナクトンガン(洛東江)、ピョンヤン(平壌)、そしてラスト38度線で繰り広げられる戦いは勿論、押し寄せる中国共産軍や平壌からの大量の避難民といった大群衆シーンにも凄いものあって、それだけでこの戦争の恐ろしさが十二分に伝わってきます。普通なら貶すであろう、手作りのハンカチ、モンブランの万年筆、革靴、といったいささか感傷に過ぎる小道具の扱い方も、この残酷な長尺の中では、かろうじて息の抜けるオアシスに感じられたりします。

いつか、韓国映画の歴代上位には「愛国映画」が並んでいる、と書いたことがありましたが、全くの誤解で、共に一千万人を超えた、この「ブラザーフッド」も「シルミド」も、反共プロパガンダでもメロでもない、朝鮮戦争や南北分断をとてつもなく冷徹な眼差しで見つめた、むしろ冷静過ぎるほどの作品であり、己の狭量さに恥じ入るばかりです。朝鮮戦争を描く屈指の傑作と云えるでしょう。