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イ・ギョンヨンつながりで、邦題はダサイながら最近DVDが発売された傑作、「シュロの木の森 (邦題:愛の傷)」 。

監督自身がコジェ(巨済)島に7年もの長期滞在をして執筆、2004年映画振興委員会シナリオ公募展で最優秀賞を獲っただけのことはある見事なシナリオです。エール大を出たエリート弁護士がカンヌン(江陵)行きの高速バスに乗り込むが、前日の見合いで彼に一目惚れしたセレブ女社長も彼を追って同じバスに乗り込む。彼女を相手に弁護士は、2年前愛し合った娘そして彼女の母・祖母の半世紀に渡る哀しい物語を始める・・・ってのが出だし。

粗暴な夫の後妻に入った祖母に、『夏の香り』ソン・イェジンの先輩役で知る人も多いチョ・ウンスク、その二つ違いの先妻の娘(母)、その娘で造船所重機オペレーターの二役には、『威風堂々な彼女』の冷たい姉役からは想像できない名演キム・ユミ、エリート弁護士には、キム・ミンジョン(♂)、彼を追うセレブ女社長には、『キム・サムスン』姉役イ・アヒョン、一夜の契りで母を見ごもらせそして消えた船乗りには、白髪交じりの長髪がカッコいいイ・ギョンヨン。

とにかくシナリオが素晴らしくって、現在、2年前、20数年前、さらにその10数年前と主に四つの時制を巧みに織り合わせながら、悲惨な境遇にありながら助け合って生きてきた二つ違いの義母と娘(祖母と母)の友情と信頼、一夜限りの契りでシュロの苗一本と娘を残して二度と帰って来なかった男への執着、男を愛することへの恐怖心・・・といった女性三人の哀しい思いを叙情的に書き上げた腕前は絶賛に値します。

また、「黒水仙」の舞台にもなったコジェ(巨済)島の自然や風物や住民と溶け合い、哀しい人生を象徴するシュロの森を始めとする、風蘭採り、「コースト・ガード」でも使われた足球(ジョック)、アキ・カウリスマキ「マッチ工場の少女」とかの素材を駆使した演出も冴え渡っている上、それに応えるかのように、チョ・ウンスクとキム・ユミが素晴らしい演技を見せ、キム・ミンジョンもでしゃばらない感じで巧く狂言回しを演じているところも文句無しです。

ラストは多少軽めかな、と云う思いもありますが、エンディングにかかるジュリー・ロンドンがカバーした「Love Letters」(1954年ジョセフ・コットン主演「ラヴレター」のテーマ曲だとか)もお気に入りの、近年稀なオリジナルでありながらそれでいて文芸の香り高い、好感度満点の作品です。