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もう一本、イム・グォンテク監督、チョ・スンウ主演のコンビ、「下流人生」。

50年代終わりから70年代始めにかけて、激動の韓国現代史に重ね合わせるように、一人の男の生きざまを描く佳編。

主演には、デビュー以来四年ぶり二度めのイム・グォンテク監督作品出演のチョ・スンウ、その年上の妻に、そうは見えないながら実際チョ・スンウより年長で、裸も見せるキュートなキム・ミンソン。チョ・スンウの母親に、『ファッション70s』『ごめん、愛してる』などスタイル抜群のイ・ヘヨンが特別出演。

1960年4月19日四月革命、1961年5月16日軍事クーデター(この日、キム・ミンソンが長男を出産)、1965年2月大平正芳外相・キム・ジョンピル(金鍾泌)中央情報部長の密約に基づく共同声明の発表(この時、チョ・スンウ出所)、1968年1月22日(21日と記述されることが多い)青瓦台襲撃事件、1972年10月17日十月維新、これらテロップで流される日付が、主人公チョ・スンウの、やくざ、映画制作、軍関連事業談合屋、実業家と転変していく浮き沈み人生と微妙にシンクロしながら進む物語は、「将軍の息子」でも見せた大規模で精緻なセットの助けも借りて、生々しいリアリティを醸し出しています。

とは云え、この監督作品には珍しく、時代に対しても、主人公(とその妻)に対しても、その距離感がはっきりしない感じがあって、批判でもなく、共感でもない、妙な間合いを持って描かれているので、見ている方は、かなり落ち着きません。監督にとってこの時代は、そんな感覚で見えているのかも知れません。1973年のシーンでは、監督自身の「証言(DVDタイトル:ソウル奪還大作戦 大反撃)」という映画の巨大看板が、機動隊が学生に投げつける催涙弾の煙で隠れていく、などという象徴的場面もあったりするので、良く見ればもっとメッセージが伝わって来るのかも知れませんが・・・

映画としての完成度の弱さは否めず、個人的には、ほぼ同じ時代を描いている「大統領の理髪師」の方が好きですが、時代を知る上では、見て損のない一本かもしれません。

余談ですが、エンディングでかかるシン・チュンヒョンの「下流人生」というアングラ・フォークっぽい曲がかなりイケてます。シン・チュンヒョンについては殆ど情報がないのですが、映画「ラジオスター」のOSTの中にも、ノスタルジックなポップ演歌調「美人」が収録されてたりします。