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イム・グォンテク監督の、「春香伝」 。

巨匠イム・グォンテク監督が、人間文化財チョ・サンヒョンのパンソリにのせて描く、全羅北道ナムウォン(南原)を舞台にした有名な伝承「春香伝」の十数度目の映画化。

主演のイ・モンニョン(李夢龍)とソン・チュニャン(成春香)には、共にこの映画のための公開オーディションで選ばれ銀幕デビューの、この後スターに登り詰めていくチョ・スンウと、16歳にしてヌードも見せるイ・ヒョジョン。チュニャンの付け人ヒャンダン(香丹)には、「青い門」『冬ソナ』のイ・ヘウン、元妓生のチュニャン母親ウォルメ(月梅)には、パンソリも聞かせてくれるキム・ソンニョ。

この作品の魅力は、パンソリと映画との信じられない完成度の融合でしょう。エンドロールによると"Adapted for the Screen by"(翻案)としてキム・ミョンゴンの名前がありますが、自らもパンソリの名手で「風の丘を超えて(西便制)」主演の彼が、4時間を超えるパンソリ本編を、実に見事に「映画」として再構成していて、勿論チョ・サンヒョンの唄は素晴らしいのですが、巧みに、台詞、素の語り、或いは、役者の女声のパンソリを挿入することで、素人にも馴染める抜群のリズムを持った映画に生まれ変わっています。そして、監督の演出は、美しい自然、歴史的な建物を、また時には、チョ・サンヒョンの舞台に熱狂する「現代」の観客までをも背景として、美しい人間ドラマをパンソリの響きの中に巧みに溶け込ませていて、そもそも映画では邪道の「筋を言葉で説明する」パンソリがありながら、それに全く負けることのない絵と演技を作り出していることには感動すら覚えます。

ストーリー自体はたわいなく多少無理も感じる「メロ」と「水戸黄門」の合体といったシンプルさですが、それをここまでの芸術性に高めたチョ・サンヒョン、キム・ミョンゴン、イム・グォンテクの三人の力量には心から敬意を表したいと思います。ミュージカルとは全く異質の、世界でも稀な伝統芸能と映画の融合した素晴らしい芸術作品です。