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さらにイム・グォンテク監督、「シバジ」。

李氏朝鮮時代に実在したシバジ(種受け、代理母)をテーマに、男の時代に踏みにじられる哀しい女性像を描いた、シェークスピアの悲劇を彷彿とさせる傑作です。

主役は四人の女性といって良いでしょう。生まれながらのシバジで17歳で処女のまま最初の家に向かう娘に、カン・スヨン、シバジとして彼女を産んだその母に、『新・貴公子』『クッキ』のコミカルなおばさん役からは想像もつかないキム・ヒョンジャ、息子の跡継ぎに悩みシバジを受け入れることを決める大奥様に、「祝祭」のある意味主役ハン・ウンジン、28歳にして子を成さず姑の決定を受け入れる若奥様に、コリアン・エロスの代表格パン・ヒ。

時代設定が「生者よりも死者が尊ばれた時代」とあるように、先祖の祭祀を執り行うためだけに、妻が嫡男を産むことを求められる残酷な時代を背景に、不条理に弄ばれる四人の女性を描くシナリオは秀逸です。ちなみに、儒教の一派儒林派は妾を持つことを許さないそうで、そのため男で家系を続けることが難しく、このシバジという闇の女性たちが必要とされたようです。謝礼は、男の子なら畑5反、女の子2反、カン・スヨンは処女なので10反だそうで、女の子が生まれた場合はシバジが引き取り、陰門谷に連れ帰りシバジとして育てるという設定も涙を誘います。

自分を男の子を産む機械として頭では割り切りながらも男に溺れていく娘、同じ経験を持ち苦悩する母、まるで建築現場監督のように息子とシバジの交合を仕切る母、夫とシバジの交合を障子の向こうから事細かく指示する妻、といったあまりに非現実的な人間関係は、ある種ファンタジックな匂いすらしますし、かがり火の下で繰り広げられる「王の男」でも見られる男女の戯れや僧侶への風刺に満ちた仮面劇や、パンソリの哀切な響き、といった映画的効果も素晴らしいですが、何といっても、この演技で第44回ベネチア国際映画祭主演女優賞を獲ったカン・スヨンで、無邪気、健気、妖艶、慈愛、絶望といった女性のあらゆる要素を見せてくれる演技は絶賛に値します。

エロスという単語が四つも踊る品の無いビデオ・ジャケットとは無縁の、どことなくユーモラスで、それでいて痛烈にもの哀しい、「映画」作りの巨匠イム・グォンテク渾身の一本でしょう。