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チョン・ジェヨンつながりですが、全く格の違う、「シルミド」。

韓国映画史上初めて1000万人を超えながら、実話に基づいているが故、ネットや書籍での毀誉褒貶のきわめて激しい作品です。「その時、その人々」と同様、映画と現実の距離感を論じる資格はありませんので、映画単独で見る限りですが、何処の国にもあり得る権力の愚昧と軍隊の狂気を真正面から見つめた、個人的には、岡本喜八「肉弾」オリバー・ストーン「プラトーン」に比肩しうる傑作だと思います。

まず三人の班長役、元連座制死刑囚ソル・ギョング、同じく死刑囚チョン・ジェヨン、元暴力団組長カン・シニルが素晴らしく、それぞれ違った個性を持ち、反発しあいながらも、信頼関係を深め、684部隊に染まっていく演技は強烈です。軍側では、司令官アン・ソンギと一見無慈悲で実は・・・というホ・ジュノも、裏に人間性を秘めながらも過酷な軍人を演じきっていますし、前半一人でコミカル部分を担当するイム・ウォニも、その演技は巧く後半につながっています。

イム・ウォニの役回り、母親の写真、丁寧に包まれた一本の煙草、キャンディ、などの映画的脚色がよく非難されていますが、確かに多少安易か、という感じもしないではないものの、激しく重苦しい映画の流れの中では、適度に情緒的で、巧く映画のリズムを作っているように感じます。もしこれらのシーンがなければ、2時間を超える重苦しい長尺をとても最後まで見られなかったと思います。

ちなみに歌の使い方も巧く、度々登場する「民衆の旗、赤い旗~」という歌は北朝鮮の革命歌「赤旗歌」で、北への潜入時のカモフラージュ用に練習していたものと思われますが、そのアイロニーに満ちた使われ方は秀逸ですし、逆に一度だけ歌われる「蛍の光」のメロディに乗せた「東海の水と白頭山が~」は韓国の古い国家「愛国歌」だそうです。

映画の元になった事件については多くの書籍も出ており、知れば知るほど、この映画との距離感に当惑すると聞きますが、少なくともオリジナル脚本だと思って見る限りは、世界に通じる強烈なメッセージを発する傑作だと云って過言ではないと思います。