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ミョン・ゲナムのために作られた、「お客様は王だ」。

人生はたかが歩く影、哀れな役者だ、
出場のあいだは舞台で大見得を切っても
袖へ入ればそれきりだ。 (松岡和子訳、ちくま文庫)

マクベスの台詞から始まる、洒落たサスペンスなのですが、実は、この映画、韓国映画界に底知れぬ貢献をした映画人ミョン・ゲナムへの讃歌でもあります。ミョン・ゲナムは、『新・貴公子』『ホテリア』など軽いドラマや「GO」といった邦画で日本でも良く知られてますが、どんな小さな出演依頼も断らない名バイプレーヤとしての顔以外に、イースト・フィルム代表として「グリーン・フィッシュ」「ペパーミントキャンディー」「オアシス」といった名作を世に送り出すなど、韓国映画界になくてはならぬ重鎮だそうです。この映画でも、役名を拝借した「グリーン・フィッシュ」を始めとして、彼の出演作が多数出ますし、最後のシーンでは、彼の一人舞台「コントラバス」を登場させたりと、彼の映画への愛情、演技への執念、への敬意が、この映画を突き動かす原動力になっています。

勿論映画としても良くできています。こういうサスペンスは、脚本、演出、役者のバランスが命で、巧くかみ合わないと酷いものになりますが、この作品は、豪華ではありませんが、絶妙のコンビネーションだと云えると思います。

脚本は、未読ですが、西村京太郎「優しい脅迫者」が原作で、原作も良いのでしょうが、ミョン・ゲナムの現実の功績と巧くダブらせた翻案も秀逸です。日本でも何度かドラマ化されてるようで、私も、途中で結末を思い出しましたが、結末を知っていても知らなくても、この映画の価値はそんなに変わらないと思います。ただ、最後は、少し必要以上にヒネりすぎたかも・・・

演出も洒落てて、白黒を強調したシンプルなセット、超接写・スプリットスクリーン・無声映画風とかの小洒落た演出も過剰にならず、良く効いています。ちなみにチャン・ソンベク監督は、あの美しいキム・ギドク「弓」の撮影監督です。

そしてミョン・ゲナムを支える役者では、ソン・ジルも、「家門の栄光」「大胆な家族」とかとかの名バイプレーヤーですし、二人に色を添えるのは、「女は男の未来だ」「スカーレット・レター」「恋人」とか上品とは云えませんが生々しい色気ではピカ一のソン・ヒョナです。

名脇役としてのミョン・ゲナムは知っていましたが、映画人ミョン・ゲナムの一面も知る事が出来、ますます彼の出演作を見るのが楽しくなった、感謝すべき一本です。韓国のジョーク曰く、「韓国映画には二種類ある。ミョン・ゲナムの出る映画と、出ない映画だ」