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電気店主イ・スンフンが芸人の一人を演ずる、「王の男」。

何故、トップスターも出ず、低予算で、愛国心でも家族愛でもないこの映画が、歴代記録を塗り替え1200万人を集めたのか、見て納得です・・・

まず脚本が素晴らしく巧いと思います。何となくですが見終わった感じの似ている「ウェルカム・トゥ・トンマッコル」と比べると、一神教と多神教の違いのように、正義とか真理とかがどこかにあると決めつけることなく我々を突き放す感じが、何度も見たいと思わせる理由の一つのような気がします。権力と芸人、暴君と諫言、友情と恋情、清貧と涜職、芸術と大道芸、といった幾重もの緊張関係が、深い余韻を残す仕掛けです。但し、個人的には「ウェルカム・トゥ・トンマッコル」の方が好きですし、グローバルには評価され易いと想像しますが・・・

勿論役者も凄いです。権力を恐れぬ芸人カム・ウソンの自由闊達な空気、暴君と呼ばれる燕山君(チャングム中宗の先代)チョン・ジニョンの狂気と孤独、美貌の芸人イ・ジュンギのえも言われぬ色香、一見耄碌したかの臣下チャン・ハンソンの恐ろしい深慮・・・卑しい広大(クァンデ:大道芸人)の芸を扇の要に、彼らの鮮烈な生きざまを、生き生きと演じてくれています。

さらには、卑猥な路上劇は勿論、カム・ウソンの綱渡り、イ・ジュンギの指人形、チョン・ジニョンの影絵、など要所要所に現れる芸事の、粗削りで素朴な味わいが、さらに物語に引き込む背景になっています。

確かに世に云われる通り、自分もひょっとして・・・と思わせるイ・ジュンギの魅力は認めざるを得ませんが、それをも単なるパーツとして取り込んだ、この映画の懐の深さは凄いと云うしかありません。