どんぐりの森から -2ページ目

どんぐりの森から

芦生の森から。

最近映画化されたこともあり、話題になっていた作品。
私は時代小説が特に好きであるという訳ではないが、選り好みはしない。
今まで読んできたものとしては、浅田次郎『壬生義士伝』、百田尚樹『影法師』、藤沢周平『隠し剣シリーズ』など。少ないですね。
ちなみに、時代小説で名作が多いと言われている宮部みゆき(彼女の作品は好き)についてはほとんど読んでいません。そのうち読もうとは思っています。

さて、この『蜩の記』ですが、とある事情から数年後の切腹を命じられた壮年の武士の元に、切腹を免れた若い武士が遣わされ、切腹の時期まで藩史の編纂を手伝う、というのが大まかな話。
彼らを取り巻く登場人物をめぐって、武士と農民との対立や淡い恋心、謎解きの要素も少し入っている。

内容としては面白い作品だとは思ったのですが、謎解きの部分がやや中途半端な印象でした。
ロバート・キャンベルの解説(文庫版)も、何を解説したのか、ふわっとしたもので…。

期待した分、ハードルの下をくぐられた感覚でした(笑)。
映画は役所広司主演らしいので、機会があれば見てみたいと思います。
私は、「ライトノベル」と呼ばれる類の本が嫌いではありません。
と言っても、量を読んだ訳でもないので、偉そうなことは言えませんが…。

初めて読んだのは、米澤穂信の『氷菓』だと思います。
果たしてあれはラノベなのか断言はできませんが、今回読んだこの『珈琲店タレーランの事件簿』シリーズも非常によく似たにおいがします。

両者に共通しているのは、日常ミステリーであるということ。違うのは、前者の主人公が高校生であるのに対し、後者の主人公は大学生(社会人?)であるということ。
ミステリーと言っても、誰かが殺される訳でも、警察と協力、対立しながら難事件を解決する訳でもありません。その意味では、前回紹介した有栖川有栖のシリーズとは趣を異にするのですが、「謎解き」という点は共通しているし、決して質が劣っているとも言えないと思います。

謎解き自体は作品を読んでいただければいいとして、私がこの本を手に取ったもう一つの理由が、作者が京都の大学出身であり、作品の舞台も京都である、ということ。
京都を舞台に描いている作家で言うと、森見登美彦や万城目学なんかが好きですが、私が京都の学生であるということもあって、非常に臨場感があっておもしろいんです。

京都に愛着のある人は思い出しながら、あまり馴染みのない人は想像しながら、コーヒーを片手に(作中にやたらコーヒーの解説が出てきます)ぜひ読んでみてください。
初めて有栖川有栖という作家の名前を聞いた時、女性だと思っていました。
といっても、作家の性別を勘違いしていて、写真を見て驚くことはよくあることのようです。
恩田陸(女性)、有川浩(女性)、桜庭一樹(女性)、乾くるみ(男性)辺りでしょうか。

明治から大正の作家、例えば夏目漱石なんかは、これは男性でしょ、という筆致が多いのですが、多くの小説は性別が表に出てきていないようにも思います。
もちろん、同じ作家の作品だと、それとなく「雰囲気」が文章から漂っていることも頻繁に。

さて、本作『女王国の城』は、シリーズものの4作目にあたります。
当シリーズには、大学のミステリー同好会に属する男女4人が登場し、
部長である江神二郎が探偵役、有栖川有栖(作者と同名)が語り手、ワトスン役をつとめます。
作品の終盤に、「読者への挑戦状」なるものが登場し、その後謎解きが始まる、という点にも特徴があります。

ジャンルとしては、いわゆる本格ミステリに分類されるのかもしれませんが、私はミステリーにあまり明るくなく、古典ミステリーも殆ど読んだことがありません。
したがって、作中に頻繁に(本当に頻繁に)出てくるエラリー=クイーンの作品、およびそのトリックなどは、「聞いたことあるなぁ…」程度です。
時間があれば、そのあたりにも手を伸ばしたいとは思っているのですが…。

本筋に入りましょう。
一読した直後の感想は、「長いわ!」
文庫版にして、上下合わせて約900ページあります。なかなかのボリューム。
ということもあって、登場人物(≒容疑者)が多く、やや混乱してしまいました。
読み進める際、各登場人物の年齢、特徴などをメモしていくと、もしかすると犯人の目星がつきやすい、かもしれません。

ただ、内容としては面白いことに違いはありません。
上下巻に分けたことも功を奏していると思います。前半はやや静かに展開しながら伏線を張り、後半で一気にスピードを上げて解決へ。冗長になり過ぎずに済んでいるのはこの点でしょう。

加えて、舞台となるのがある宗教団体が拠点を持つ町であり、宗教が持つ特異性や、一種の異常性も垣間見られるところにも、ただのミステリーにはない面白さがあります。

シリーズものですので、一作目から読むとより味わえることには違いありません。
もし何か一冊、というのであれば、3作目『双頭の悪魔』をおすすめします。
日本の会社はとかく会議が多い。らしい。
そのことに対しては否定的な論調がほとんどのようだ。

私も、手伝っている仕事の関係もあって(大学生ですが)、
月に一度顔を合わせて、週に一度Skypeで「会議」をしている。

今年になって、その主催をするようになってから、気付いたことがいくつか。

一つ目。
招集する人はもちろん、参加する人たちが事前に準備をしていないと、
ほとんどが時間の浪費に終わってしまう、ということ。 
複数の人間が時間を合わせて、一堂に会するというのはそれなりに負担がある。
予め、準備・計画をしていないと、結局個人作業でよかった、ということになりかねないのだ。

二つ目。
会議の目的を共有しておくことが、最低限且つ最重要である、ということ。
「この会議の目的は何か」「いつまでに何を決めないといけないのか」
「そもそも何を話し合うのか」…
目的を各人が意識していれば、例えば出てきた議題に時間を割くべきか、というのは
目的との適合性で判断できる。

三つ目。
会議の種類を確定させておくことも必要であること。
アイデアを出すための会議なのか(これが基本)、ただの報告会なのか。
前者なら、事前に募集考えておかなければならず、アイデアが出なければ即解散すべき。
後者なら、本当に時間を合わせて集まらないといけないのか検討すべき。

四つ目。
正確かつ簡潔な議事録を取るべきであること。
参加できなかった人にも情報を共有できる。

五つ目。
会議を主催する人はある程度覚悟をしていくべきであること。
「能力」というほどではないものの、適切な処理、決断が求められる。

<会議が多いこと自体は悪くないと思うけれど、徒に会議を繰り返すのは時間の無駄。>

六つ目。
ただ、多くの人で話し合った方がよい結果が出ることもよくある。
有川浩の本を漁り始めたのは、友人から勧められた『図書館戦争』シリーズが発端だったと思う。
その面白さに病みつきになって以降、かれこれ10冊は読んできただろうか。

今回読んだ『県庁おもてなし課』も、心に休息を、という気持ちで手に取った。
彼女の作品の作風(?)にもれず、この作品にも二組のカップルが登場し、
ドタバタの恋愛模様を繰り広げる。
そこに関しては通常運転だったが、それだけでなく、「観光について真面目に学べた」
というのがとりあえずの感想である。

詳しくは読んでいただければよいが、いわゆる役所体質というものの問題点から、
人に訴えかけるにあたっての注意点、「田舎とは何なのか」まで考えさせられることもある。


私は、年に一度、京都府の北部にある芦生という場所を訪れている。
その町は、高齢化の結果過疎が進み、鳥獣被害にも悩んでいる「田舎」である。
そこで、夏休みに合宿を行い、現地の人たちに話を聞き、高校生と大学生で環境問題について
延々と議論をするという貴重な体験をしているのだが、毎年必ず議題に上るのが、
「芦生にもっと人を呼ぶためにはどうすればよいのか」という類の話。

去年だったか、「交通が不便だから、もっと来やすくすればいい」と言った生徒がいた。
それに対して、芦生で暮らしている人が逆に聞き返した言葉が印象的だった。
「不便で何が悪いのか」と。

それまで、田舎=不便=悪、と単純に考えていた都会の我々にとっては、非常に衝撃的な
一言だったと思う。


この作品の中にも、同じようなシーンが出てくる。
 交通の便が悪いからという理由で人が来ない観光地は、元々魅力なんてない。
 不便だということも売りの一つだ。

面白いだけでなく、文字通り勉強になる作品だと思う。