有川浩 『県庁おもてなし課』 | どんぐりの森から

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芦生の森から。

有川浩の本を漁り始めたのは、友人から勧められた『図書館戦争』シリーズが発端だったと思う。
その面白さに病みつきになって以降、かれこれ10冊は読んできただろうか。

今回読んだ『県庁おもてなし課』も、心に休息を、という気持ちで手に取った。
彼女の作品の作風(?)にもれず、この作品にも二組のカップルが登場し、
ドタバタの恋愛模様を繰り広げる。
そこに関しては通常運転だったが、それだけでなく、「観光について真面目に学べた」
というのがとりあえずの感想である。

詳しくは読んでいただければよいが、いわゆる役所体質というものの問題点から、
人に訴えかけるにあたっての注意点、「田舎とは何なのか」まで考えさせられることもある。


私は、年に一度、京都府の北部にある芦生という場所を訪れている。
その町は、高齢化の結果過疎が進み、鳥獣被害にも悩んでいる「田舎」である。
そこで、夏休みに合宿を行い、現地の人たちに話を聞き、高校生と大学生で環境問題について
延々と議論をするという貴重な体験をしているのだが、毎年必ず議題に上るのが、
「芦生にもっと人を呼ぶためにはどうすればよいのか」という類の話。

去年だったか、「交通が不便だから、もっと来やすくすればいい」と言った生徒がいた。
それに対して、芦生で暮らしている人が逆に聞き返した言葉が印象的だった。
「不便で何が悪いのか」と。

それまで、田舎=不便=悪、と単純に考えていた都会の我々にとっては、非常に衝撃的な
一言だったと思う。


この作品の中にも、同じようなシーンが出てくる。
 交通の便が悪いからという理由で人が来ない観光地は、元々魅力なんてない。
 不便だということも売りの一つだ。

面白いだけでなく、文字通り勉強になる作品だと思う。