先日大津に行く用があり、京都駅からJRに乗った。雪のちらつく寒い日だった。ぼんやりと外を眺めていると、山科へ抜けるトンネルが見え、錆びた跨線橋が掛かっているのが目に入った。

 「あ、もしかして、ここから飛んだんじゃないのかな。」と、唐突に思った。「高野悦子さんは、」。最近何度か大津に出かけているけれど、それに気づいたのは初めてだった。

 用事が終わって、ひとりになって、緩やかな坂を湖に向かって下っていった。『二十歳の原点』に、琵琶湖へ行ったという記述があったかどうかは覚えていないけれど、京都の大学生なら、きっと琵琶湖に遊びに行ったことはあるだろうと思った。彼女を思いながら湖を眺めてみたくなったのだ。

 

    大津行き 山科へ抜く トンネルに

        君が飛びしか 錆びた跨線橋

 

 湖は空を映して灰色に波立っていた。雪が舞っている空を、鳥たちが飛んでいた。

 

    たをやかに 孤独なる魂 抱きつつ

         君も佇みぬ 鈍色(にびいろ)の湖(うみ)

 

    鈍色の 水面(みなも)近くに 遊び居る

         小さき鳥は 君が御魂か

    

    鈍色の 空かける鳥たちよ

         君が御魂の 永遠(とわ)なる自由を

 

    我知らず 鎮魂の日を歩みゆく

         若き日読めり 『二十歳の原点』

 

 帰宅し、本棚を探してみたけれど、『二十歳の原点』は見つからなかった。