さて、前回は魔道書が「他人の財物」に当たることを説明致しました。
お次は不法領得の意思の検討です。
とその前に、お忘れの方もいらっしゃるかと思いますので、もう1度事実の概要を掲載しておきます。
(2) 不法領得の意思の有無
まず基礎的な事項を確認しておくと、不法領得の意思については明文の規定が存在しないものの、これを"記述されざる構成要件"として要求するのが判例・通説です。
というのも、これにより①一時使用といった不可罰な行為との区別(可罰範囲確定機能)及び、②毀棄・隠匿罪との区別(犯罪個別強化機能)が可能となるからです。
そして、かかる趣旨から判例は、不法領得の意思とは、①権利者を排除し他人のものを自己の所有物と同様に扱い(支配意思)、②その経済的用法に従いこれを利用し又は処分する(用益意思)意思をいうものとしています。
これを本件についてみますと、まず①について、ベルくん(甲)は魔道書を一時的に借りる意思でこれを持ち去っています。
とすれば、前述の「一時使用」にあたるため、支配意思は認められないと考えるのが自然です。
しかし、判例は、自転車を一時使用する目的で持ち去った行為について、窃盗罪の成立を認めています。これは、一時使用であったとしても権利者を排除する意思が認められる場合には支配意思を認めようとするものと考えられます。
そこで、具体的に検討してみますと、魔道書の「権利者」とは窃盗罪の保護法益たる占有をする者であると考えられるため、女主人であるといえます。
そして、ベルくんは女主人の承諾を得た上でこれを一時的に借りているので、ベルくんの意思としては「女主人の占有する本Xを一時的に借りる」というものであったのでしょう。
とすれば、ベルくんは未だ女主人の占有を排除して自己の所有物と同様に扱う意思を有していなかったのが実情でしょう。
もっとも、このような実情が裁判によって明らかになるとは限りません。
本件では、弁護士が立証に失敗して①が認められてしまう可能性も考えられます。
というのも、事実だけをみると、非冒険者であるため魔道書の効果(1度読むと滅失する)を知らない女主人から、この効果を知る(と推認される)冒険者ベルくんがかかる効果を秘して魔道書を奪おうとしたものと判断しうるからです。
また、上記のように判断されたならば、ベルくんは魔道書を読むことでこれを実際に滅失させようとしているとも認められるので、②用益意思も肯定されてしまうでしょう。
このように、ベルくんの不法領得の意思が認められるか否かは、担当弁護士の力量にかかっているといって良いでしょう。
(3)「窃取」したか
「窃取」とは、占有者の意思に反して財物の占有を自己又は第三者に移転することをさします。
本件において、ベルくんが上記の通り不法領得の意思を有していると判断されますと、女主人は本Xを滅失させることを許容してはいないので、占有者の意思に反して「財物」たる魔道書の占有を自己に移転させたといえます。
よって、かかる前提の下では、「窃取」したと認められます。
今回は、不法領得の意思の有無及び「窃取」したといえるかについて検討しました。
これで、窃盗罪の構成要件該当性は弁護士の立証失敗という条件つきで認められたことになります(笑)
次回は、違法性阻却事由及びシル(乙)の罪責について検討してみたいと考えています。
どうぞ今後ともよろしくお願いします(`・ω・´)ゞ
【追記】
「窃取」の記述に関して、訂正があります。
上記の通り、ベルくんが魔道書の効果を秘して奪ったと認められる場合、確かに女主人の黙示的意思に反しますが、一応女主人自らの意思で処分したといえますので、「窃取」にはあたらず、窃盗罪は成立せず、むしろ詐欺罪が成立します。
他にも誤っている箇所があるかもしれません。ご指摘の程、よろしくお願いします。