春のこわいもの | 5番の日記~日々好日編~

5番の日記~日々好日編~

気の向いた時に気の向いた事を勝手に書いています。
よってテーマは剛柔バラバラです。

どんな人にでも必ず、"黒い部分" はあります。

そして、どんな人にでも、その人の思考や行動の根っこになっている "固定観念" があります。



多くの場合、固定観念とは言わずに「価値観」という言い方に変えて(笑)、何やら良い方に印象づけられていますが、それを形成しているものは過去の経験値から来るコンプレックスや虚栄心のような、あまり人に言えるようなシロモノではなかったり。



でもその黒い部分は、

見方を変えればその人の「本能」かも。


もしかしたら本人は自覚していない....?



そうなると、何か異次元な体験をして自分自身の中でコペルニクス的転回でもない限り、決してその呪縛からは逃れられません。



人が持っている黒い部分....  最も一般的な例で言いますと、

「他人の不幸は蜜の味」

というヤツ。


ただしこの表現は英語にはありません。

英語の「a Taste of Honey」は意味が違いますね。

無理やりに探せばあるかもしれませんが日本のように常態化した言葉じゃない。


"ヨーロッパの京都" と呼ばれるフランスにもない。



日本以外で唯一、「他人の不幸は蜜の味」という意味の言葉がある国は、

ドイツ....(笑)




黒い部分はずーっと隠れていれば良いんですが、

それが時々、顔を出す....

顔を出しては人を震撼させます。




2008年に『乳と卵』で芥川賞を受賞した川上未映子の新刊が今年2月に刊行されました。


『春のこわいもの』


全6篇からなる短編集。


感染症が蔓延して不穏な空気に支配される東京で6人の男女が体験する闇....



川上未映子という作家は、その特殊な文体故にかなり読者を選びます。

芥川賞受賞作はデビュー作でもありますが、句読点なし改行なし大阪弁という斜め上な作品。いちげんで「この本ダメ!」と思った方も少なくなかったと思うようなシロモノ。


大阪弁以外は明らかに樋口一葉を意識してます。





この人、作家になる前はミュージシャンだったそうで、全く売れずに作家に転向したとか。

ミュージシャンらしく、読み進むリズムを重視してこういう文体なんでしょうか?



しかし今回のこの新刊は、そういったアクの強い部分がかなり薄められていまして、川上未映子アレルギーのある方でもたぶん大丈夫。




世界は明日になると一変しているかもしれない、

明日、もしかしたら自分は死ぬかもしれない。

そんな事は誰も考えていませんが、今日、どこかで突然死んだ人も、きっと昨日までは自分が死ぬなんて思っていなかったはず。

明日、死が待ち受けている事なんて誰も知らない.....



そんな不穏さに満ちた話ばかり。




病気療養中の女子大生が「きみ」に宛てて書く手紙、

深夜の学校へ忍び込む高校生、

寝たきりのベッドで若い家政婦のセックスを想像して自分の人生を振り返る老女、

美容整形のカネの為にギャラ飲みする女性、

親友をひそかに裏切り続けていた作家志望のお姉さん....




冬の間はじっと息を潜めていて、春になると動き出す。

感染症が広がる前までは姿を表さなかった様々な「こわいもの」

この本が刊行されたのは2月。

今や、コロナよりもっと死に直結する事が欧州で起きています。




でも、感染症も戦争も、もしかしたら防げたかもしれません。

人間の黒い本能は防げない。