静心所と御銀杏
中村拓志&NAP建築設計事務所設計
社殿に至るコの字型の奥参道の内側は、樹齢600年を超える御神木を中心としたく祈りの庭>です。この静心所は拝観前に御神木と対面して心を静め落ち着かせるための建物です。
静心所の屋根架構材には、このすぐ脇にあった
大きなイチョウの木(御銀杏)を用いています。
イチョウの葉は燃えにくい特徴があり、
延焼防止のため創建当初境内各所に植えられました。
高さ約30メートルにもなるこの御銀杏は御神木と共にこの地を見守っていた歴史があり、
その枝にはフクロウが住み着いておりました。
しかし2020年に幹が割れているのが確認され、調査により内部に大きな空洞があること、このままでは動物園の通路に向かって倒木する可能性があることが分かりました。安全のためやむなく伐採となりましたが、その御銀杏の木材を加工し静心所の屋根として使用することにしました。大きな木でしたが内部の空洞が大きく、想定よりも木材の量や長さが取れなかったため、60mmの厚さの木材に加工し、それをずらしながら曲面をつくり、シェル構造と呼ばれる貝殻のような構造によって強度を高めました。ここに座る一人ひとりの頭上を包み込む屋根のカーブは、イチョウの葉が重なり合う様子をイメージしています。
社殿を敬うようにこうべを垂れる軒先の前面に柱はなく、御神木・社殿・五重塔と、江戸と変わらぬ風景が何にも遮られずに目前に広がります。
静心所後方のスリットを覗くとそこには御銀杏の切り株が見えます。切り株には新しく芽吹いた萌芽が生き生きとその幹を伸ばし、生命の強さや繋がりを感じさせます。