陝西省南部にある町漢中、『項羽と劉邦』『三国志』に馴染みがある人はこの町の名前を聞いたことがあるかもしれないが、それ以外ではあまり知られていない。しかしこの漢中という場所はその知名度の低さに関わらず、実はとても歴史的にとても重要な価値をもつ場所なのである。
「漢中」という地名は長江最大の支流「漢江(または漢水)」の中心にあるという意味から、「漢江の中心」、「漢中」とつけられた。そして漢中が歴史の表舞台に名を表すのは『項羽と劉邦』の時代である。
劉邦に咸陽を先を越された項羽は激昂し劉邦を殺害しようとしたがやめ、劉邦に辺境の漢中を封じ、咸陽から距離にして遠くないが、険しい山々に囲まれた漢中に劉邦を封じ込めようとした。漢中は北は秦嶺山脈、南は大巴山脈に挟まれ漢中盆地として地理的に孤立している。その孤立した場所漢中の王「漢王」として兵を率い最終的に項羽を倒し、漢王朝を打ち立てる。残虐な項羽とは違い、劉邦は人望が厚く人々の支持をあつめた。やがて漢高祖として拝まれる劉邦の民として「漢」が名乗られるようになり、これが現在の「漢民族」に至っている。
その後も漢中は度々歴史の舞台に出てくる。地理的に咸陽や長安(西安)と南の蜀(四川)をつなぐ要路として漢中は通らなければいけない道で、劉備軍と曹操軍も漢中で戦っているように、しばしば戦の舞台ともなった。諸葛亮孔明が遺言により自らの屍を埋めた定軍山も漢中にある。
また紙の発明者とされる蔡倫が紙を発明したとされた場所も漢中である。紙は人類の発明史上最も重要な発明の一つとされており、その漢中こそその発明がなされた場所とされているのである。漢中市洋県には蔡倫博物館があり、当時の紙の復元や製造工程などが学べる施設がある。またそこは「蔡倫の墓」として、蔡倫が眠る場所とされている。
漢中はまた日本ともつながりがある。漢中には日本で一度絶滅したトキが多く生息する場所であり、日本にトキが居なくなった時に中国から日本に送られたトキも漢中市洋県産のトキで、現在日本にいるトキもその子孫である。漢中には今でも野生のトキが沢山生息しており、山の方に行けばたまに見ることもある。
その他にも漢中は様々な希少動植物の宝庫であり、ジャイアントパンダ、西遊記の孫悟空のモデルとされる金猿(ゴールデンモンキー)や、ターキン、キンケイ、ヒョウが生息しているとても珍しい場所なのである。これも秦嶺山脈という文明が手の届かない断崖絶壁の巨大な森が守られていることが生物相の保護に大きく貢献しているのである。
述べた通り、漢中はあまり名は知られていないが、歴史的、文化的、また生物学的にもとても価値がある魅力的な町である。しかしこんな町にも、等々中国の高速鉄道が今年の秋開通予定である。現在なかなか来づらい場所であるが、これからはもっとたやすく行ける場所となると思う。興味がある方々いれば、是非行ってみることをお勧めする。もし何か聞きたい事や情報が必要であれば、気軽に連絡ください。