いま実験で、翻訳者の「作業環境」を考慮に入れた研究をしている。ということで、(アーカイブの意味も含め)私の作業環境(仕事場)を披露(あんまり昔と変わらないけど、音響周りのガジェットが増えた)。

 

永田氏には、色々な方面でお世話になっております。初回の記事と併せて読んでいただきたいです。良記事です。

さて、本記事のメインではないですが、永田氏によると、
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チョムスキーの流れをくむ生成文法を信じる人たちは、その普遍的な言語能力とは、構文を解析する能力だと言っています。けれども、最近のニューラルネットに基づく言語処理を見ていると、ニューラルネットは入力と出力だけで言語を習得しているかのように見えるので、構文解析ほど複雑ではないシンプルな能力が人間に備わっている(遺伝する)ことが、言語能力だと仮定できるような気がするのです。
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これについて。近年のチョムスキーのmergeの考え方は曖昧です。チョムスキーは、ミニマリスト以降、非常に基本的な言語操作のみで言語能力を説明しようとしてきました。ですので、mergeの概念は、上述のシンプルな能力に対応すると思います。ざっくり言うと、ニューラル技術で言うところのtransformerの処理が、チョムスキーのmergeという操作に対応するのだと思います。

上位概念としては、RNNとattentionがそれを支えている機能であり、これらをどんな組合せで使ってネットワークを構築するのかにより、言語であったり、数学であったりを扱える。これが、人、つまりホモサピエンスに備わっていて、動物を含むそれ以外の原人に備わらなかった能力という感じなのでしょう。脳内で言うところの、ブロードマン45辺りで処理されるわけです。

HUMAN POWERED 2022 APRIL 機械翻訳セッションでお話しします。翻訳者向けの内容です。


「機械翻訳の時代に求められるプロ翻訳者の説明力とは?」


いわゆる、翻訳者コンピテンス translator competenceの話です。これは、翻訳コンピテンス translation competence とは異なります。前者が、AI学習の時代に求められる能力です。


機械翻訳とあなたの翻訳結果の違いを、一般読者と、これから翻訳を学ぼうとしている人たちに説明する事の大切さ。その説明の一部は、次の機械学習にも有用かもしれません。


そんな、お話をします。



「翻訳カフェ」最新情報より

 

今回は「機械翻訳を使えば、大学入試の英語試験(長文読解問題)をパスできるか?」を検証します。弊研究室の大学院生(西原梨沙さん)の研究結果をベースに解説を加えます。
 検証では、某私立大学の英語の入試問題を使い、機械翻訳のDeepLを使って、長文読解を解けるのかを検証しました。検証方法の詳細として、新井紀子氏のチームが開発した「RST(リーディングスキルテスト)」を援用し「理解」の詳細を分析しました。従来の翻訳品質評価指標(MQMベースのMNH-TT)を使ってエラーアノテーションも行いました。
 結果は、機械翻訳を使えば、大学入試の英語試験(長文読解問題)はパスできる。理論的には、ほぼ全問正解できるだけの情報をDeepLの日本訳は提供してくれる、ことがわかりました。
 他方で、従来の翻訳エラーは、100箇所以上ありました。しかし、長文読解の問題を解く妨げにはなりませんでした。
 とはいっても、これは機械翻訳の訳出が完璧であることを意味しません。本検証で判明したのは、機械翻訳は、「係り受け解析」「照応解析」を苦手とし(つまり、RSTでも正答するのが難しい)という問題を抱えていましたが、本検証で使用した某私立大学の大学入試の英語の設問のほとんどが「同義文判定」であったため、機械翻訳が苦手とする、「係り受け解析」「照応解析」を回避することができた、というだけのことでした。つまり、結論としては、「機械翻訳を使えば、大学入試の英語の長文読解くらいであれば解けてしまう」ということに過ぎないのです。この結果は、これからの、日本の英語教育のあり方をも、考えさせられるものでした。

 

 

「科学とは専門家の無知を信じることだ」 というファインマンの言葉を借りると、翻訳者は文書を前に自ら専門家だから専門家として自らの知識を 適用することで翻訳ができるという前提ではなく、自らの無知を踏まえて翻訳に臨むという点で、未知の事象を前にした科学者に似ていると言えます。

 

引用元:
影浦 峡 (2021) 人間の翻訳と機械の翻訳(5):翻訳者のコンピテンスとは何か, AAMTジャーナル, No 75, 34-38. 
https://aamt.info/wp-content/uploads/2021/12/AAMT-journal-No75.pdf