由麻と谷口を乗せたタクシーは桜田通りを南下し、東京タワーの目の前を通って、増上寺の緑の中を東進した。 すぐに両側に中層ビルが並ぶ狭い通りに入る。 タクシーは谷口の指示によってその谷間に停まった。 人通りは全くなく、無人の街のように深閑としている。 何処か廃墟に入り込んだような違和感があった。

「面倒だから、歩いて入りましょう。」
  谷口に手を引かれるように由麻は歩いた。
「何処にあるの。 その会長さんちは?」
  由麻が隣の谷口を見上げて言う。

「もうすぐです。」
  ビルを二つ通り過ぎると左側がやたらと高い漆喰の塀になった。 すぐに瓦の屋根を持った鉄色も美しい大きな門の前に出た。 
「ここなの?」
  由麻の背丈の二倍はありそうな門に気圧された上擦った声で由麻が言った。

「ちょっと待って下さい。」
  谷口は門脇のボタンを押した。 
「谷口だ。 入れてくれ。」
  ボタンの上の方を見ながら谷口が声を上げた。

  鉄扉は音もなく、意外にも左右に開いた。 都心とは思えない鬱蒼とした緑が門の額縁の中に現れる。 緑を透かして豪壮な和風建築が微かに見えた。 そこまで続S字の石畳の左右に数人の男の姿があった。 谷口の腕に掴まって由麻が門を入ると背後ですぐに門が閉まる気配がした。

「凄いね。 さすが会長さん。」
  由麻の戯けた口調に緊張感が隠れていた。
「そっすね。 討ち入りされると困るから、城みたいなもんですよ。」
  由麻達が進むに連れて、サラリーマンにしては派手目のスーツが今ひとつ板に付いていない若い男達がホテルマンの様なお辞儀をして迎えた。

「もしかして、谷口さんって亮二より偉いの?」 
「兄貴よりずっと下ですよ。 ただ兄貴は堅気だから上も下もないっすけどね。」
  白木に見える玄関を若い男がさっと開ける。 その横を通って、二人は家に入った。

「じきにアキ坊が戻ってくるでしょうからそれまでここに居て下さい。」
  由麻は玄関からほど近い洋風の応接間に一人残された。


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