「発見者と松村氏を迎え入れたキャストには会えますか。」
「もう署に連れていかれてますよ。 現時点では殺害できたのは彼らだけですから、尋問はかなり執拗なものになるでしょう。」


  確かにここが密室になるのは彼らが犯人じゃない場合だけだ。 彼らが犯人ならこれほど単純な事件も無い。 彼らと松村氏の間には恐らく何の繋がりもないだろうが、被害者が松村氏である以上、依頼殺人と言う事は十分に考えられる。


「指紋は出なかった?」
「まだ、昨日のゲスト全員の指紋を採取していませんから、何とも言えませんが、そのクローゼットからは出ていません。」 


 難しい事件だと言うことを確認しただけだなと森は思った。 安易すぎて発見者達が実行犯とは思えなかったが、何らかの依頼殺人の可能性はかなり高い。 松村氏を殺して得する人間が自分の手を汚したがる人種だとは思えなかった。 恐らくこの部屋に当日予約を入れていた人間の中にも犯人は居ないだろう。 疑われ、徹底的に洗われる事は分かり切っている。 とは言え、予約名簿は手に入れる必要があると思った。 今のところ手がかりがそれしか無いからだ。    


 森は居残り刑事に別れを告げて、部屋を出た。 外が明るすぎるのが不思議だった。 どの人の顔も明る過ぎて、嘘っぽくすら思える。 入場料を払ってはいたがアトラクションに乗る気にはとうていなれない。 


 本部の置かれた署に立ち寄って990クラブの会員名簿と当日の予約名簿のコピーを手に入れると本庁に戻った。


「お疲れさん。 コーヒーでよかったかな。」
 渡辺公安部長は森を自室に迎え入れた。   


「アイスコーヒーって言う我が儘は通りますか。」
「多分ね。」
  渡辺はインターフォンに使って、秘書にアイスコーヒーを二つ持ってくるよう頼んだ。 

「どうだ、うちの関係じゃなさそうか。」
「今のところ何とも言えませんね。 見てきた感じだけで言えば、最初に聞いた時より可能性が高い気がします。」

 森の返事を聞いて、渡辺のいつも付いてる眉間の皺が深くなった。

「どう言うことだ。」
「これは依頼殺人です。 実行犯の後ろに金を持った奴がいる。」


「怨恨とかじゃないと言う訳か。」
「ええ、仕事が綺麗です。 組関係でも無いでしょう。 あいつらは逃げませんし、わざわざ凝った殺人なんてしません。 バカな跳ねっ返りを鉄砲玉にすればいいんですし、殺したのは自分たちだと誇示しなけりゃ何にもなりませんから。」 
    
「借金の返済に困った人間が居たとしても、銀行の社長を襲う筈も無いか。 でも、彼に例の調査を依頼したことを知っている人間はここの人間だけだぞ。 それも私たちを含め数人に過ぎない。」
「うちの関係だとは思いたくないですね。」


「全くだ。 万一うちの関係なら、実際に調査に当たってくれている坂本さんも危ないと言うことになる。」
「ガードをつけますか。」
「そうしてくれ。 ただし、目立たないように。」

返事の代わりに森は立ち上がって部長室を退出した。 アイスコーヒーを飲み損なったと気がついた。

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