コンコルディア座礁報道を斬る | Live, Laugh, Love.

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にゃんこの近況、外航客船乗務のお話、ハンドメイド作品、
キッチンからの報告、クルーズ・海外旅行記に加え、
ちょっと気になる事、ちょっとどうでもいい事など、
不定期でゆっくり綴っています。

Live with no excuses and love with no regrets. - Montel

単刀直入に、真剣な「もの申す」。

まず、お客様がライフボートで岸に着いた頃には、何百人ものクルーが既に脱出完了。
客を置いて、クルーが真っ先に逃げた!と、おっしゃったお客様。

逃げた訳ではなく、避難したのです。
クルーが1000人を超える豪華客船。1000人皆が安全要因ですが、1000人全てが毎回避難オペに関わるわけではありません。15%から20%のクルーは「スタンバイ安全要因」です。ですから、150~200人のクルーが避難オペに必要ないと判断された時には脱出の指令が出ます。
例えば、乗務最後の3年間、避難オペ中の私の役割はお客様とクルーの集合状態を確認し、ホテル部門支配人率いる「避難コーディネーター」に報告を入れる「集合確認部(Assembly Station Coordinator)」。避難コーディネーターはキャプテン率いる「避難オペ総合司令部」と常時コミュニケーションをとり、脱出作戦の力となります。
その他、色々な役割があります。例えば、消防士さんチーム、お医者さんチーム、キッズ担当チーム、車椅子お助けチームなど。役割がないクルーは「Await Order」と言って、集合場所で先の行動の指示を待ちます。お客様より先に脱出していたのは、おそらく「Await Order」クルー達。避難オペに必要ないクルー、決して「お客様より大切」という訳ではないのです。お客様もクルーも命の大切さに変わりはないです。ただ、訓練されているAwait Order クルー達が迅速に自分たちの集合場所に集まり、脱出の準備を整えた時には、避難オペを円滑・効率的に進めていく為にも脱出の指令が下るのです。この150名を先に下船させても避難オペに支障がないと判断しているから、指令が下ります。逆を言えば、役割が指定されていない150名を脱出させる事によってお客様の脱出に支障がでると判断される場合には、必要人数のスタンバイ要因を引き抜いて脱出、もしくは「Await Order」クルーの脱出を遅らせることとなるでしょう。

クルーズが始まる出港当日にお客様対象の避難訓練を怠った、とおっしゃる「自称専門家」様。

お客様対象の避難訓練は SOLAS という国際法に準じて、スケジュールされていました。出港から24時間以内に行えば良いのです。ただし、これは変更されるかもしれませんね。でも、コンコルディア号のお客様対象避難訓練は24時間以内にスケジュールされていたのです。

現実は→避難訓練が始まっても写真撮影に忙しかったり、ビールなどを片手にプラプラしているお客様に「きちんと参加して下さい」ってお願いすると、「言い訳」、「無視」、「苦情」、「罵倒」など、首を傾げる様な応えが返ってきたりしたものです。毅然とした態度で応じるとしぶしぶと逃げて行ったものです。

この避難訓練がなかった為にお客様がパニクるのは当然のこと。クルーの訓練や対応が不十分だったのではなく、お客様に「万が一の事態とその対応」について認識してもらう機会を法律に従いながらも後回しにしてしまった残念な結果なのです。

最後に、「凍える中、温かいミルクや飲み物も与えられなかった」とおっしゃったお客様。

非常に恐い思いをされたことと思います。
でも、3000名のお客様全てにお飲み物を提供する事って、非常時には無理です。全ての命を守らなければならない非常時だからこそ、3000名のお客様の1部だけ、というのもできません。4000人を超える人の命に関わる避難オペだったんです。船が傾く中、一秒でも早く全てのお客様&クルーを脱出させよう!という時にお湯をわかすことは無理ですし、それをやけど、脱出遅延、暴動なしに3000名のお客様に配り歩く事は不可能です。

毎週行われる乗務員対象の訓練中に、たった150名の「Await Order」クルーの集合状況を確実に把握するのにも15分はかかります。暗闇の中を2時間でやってのけた4000名の脱出、私には奇跡的に思えます。

8年乗務した外資系豪華客船。最後の5年間は管理職の身にあり、緊急時の対応、充実した厳格な訓練、米国沿岸警備隊による訓練の監査とミーティング出席、非常時のお客様のリアクションなど、身を以て知っているから、客船のテクニカル部門、ホテル部門運営の実態も知らずにお客様のコメントを「ドラマ化」し、誤解や間違った認識を肯定して報道するメディアが腹立たしいのです。

PS: キャプテンの「逃亡疑惑」が注目されるなか、スタッフ・キャプテン(副船長)について聞かないのも不思議。