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カカの天下857「カカの天下」

 感無量なトメです。

 何がかというと、それはもちろん。カカが中学生になるということ!

「みんなおめでとう、乾杯!!」

 そんなわけで『小学校卒業おめでとう兼中学校でも頑張れよパーティ』が開催されたのだった。スポンサーはサカイさん。出席者はいつものメンバーだ。

「ふん、さぁ食え。俺が用意した最高の料理どもだ」

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「俺の料理のほうがうめぇ」

「なに? いい度胸だ」

「じゃあどっちの料理が一番多く食われるか勝負だ!」

 綺麗に全部食われるに一票。

「サエちゃん。あーん」

「ぱくぱくぱくぱくー」

「サエちゃん!? 無視しないでよ」

「もぐもぐ……ふぉめんカカちゃん。そんなにのんびり食べてられない」

「そんな食い意地の張ったサエちゃんなんて、だいっ好き!! ぱく……って、やば! これうま! やば!!」

 主役のうち二人は食うことに一生懸命だ。しかしこの料理の数々、見るからに高そうである。会場はサカイさんの家だし、内装はゆーたさんやらシュー君が頑張ったんだろうけど、この食材に使われた金はどこからきたんだ?
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「サカイさん」

「あらトメさん、どうしましたー?」

「さすがにこれだけしてもらって会費が0ってのは……」

「大丈夫ですよー、お金はサエのおじいさんからもらってますから」

「そ、そうなのか」

「えっとですねー、こないだですねー?」



『サエの記念日ですよー?』

『む……まぁ、少しくらいなら援助してやっても』

『ここにサエの卒業式のDVDが』

『ぐ……こ、このくらいなら』

『サエはけっこー食い意地が張ってますから、奮発すればすごく懐いてくれますよー?』

『ぐぐぐ』

『おじいさんっていう存在を印象づける、滅多にないチャンスですよねー?』

『ぐぐぐぐ』

『きっとこう言ってくれますよ? おじいちゃん、だいちゅきー』

『いくらほしい?』



「こんな感じで巻き上げましたー♪」

 えぇと、まぁ、その人が満足ならいいや、うん。

「失礼します! はいトメさん、フォアグラどうぞ、あーん」

 おっとと、横からサラさん登場。

「あらあらー。サラさんは皿でも食べててくださいな。フォアグラより高いですから」

「高ければいいってもんじゃありません。そんなこともわからないんですか?」

「あははー、お客様だからって上から目線の発言ですねー。お高くとまってるのはどっちでしょー」

「もちろんサカイさんです」

「その言い方がお高いって言ってるんです」

「なにせ皿ですから」

「百均の?」

 あーもう。この人らは顔をあわせるたびに毎回毎回……もう知らん。

「と、トメさんっ」

「おやサユカちゃん。卒業おめでとう」

「はいっ! 卒業祝いにあーんさせてくださいっ!」

 なんか色々と出鱈目な気がするけど、まぁいいや。

「はい、あーんっ!」

「あーん、あむ。もぐもぐ……んまい」

 なんだろ、魚だ。めっちゃクリーミィだ。料理名がさっぱりわからんけど、すんげー美味い。

「あぁぁぁやったぁやったぁ邪魔が入らずにあーんできたよぅ食べてもらえたよぅきゃーきゃー恋人みたいだよね彼女みたいだよねっ、わたしも中学生になって大人を一歩を踏み出せる勢いなのかしらっ」

 邪魔が入らなかったのは、皆が料理に夢中だったからだろうなぁ。

「そうよね、小学生だとさすがにアレだけど中学生ならまだセーフよねっ」

 なんの話かわからんけど、カンで発言させてもらえば中学生も充分にアウトだと思う。なんの話かはあくまでわからんけど。

「はい、あーんっ」

「もが!?」

 第二撃がくることは予想してなかった。口いっぱいに詰め込まれる魚の何か。

「じゃ、次の料理をとってきますねっ」

「……もがもが」

 んまい、んまいけど苦しい。さらに熱い。口の中が天国と地獄。

「んぐんぐんぐ……ごっくんと。ふー食った。ん?」

 あそこに見えるのはタケダじゃないか。ちょっと太った?

「食べるべきか……いや、しかし、これ以上体重を増やすわけには……しかしちょっとだけ……いやダメだ! きっと毒を食らわば皿までの勢いになってしまうに違いない」

 本人も気にしているらしく、料理の前で苦悩しまくっている。じゃあ来なけりゃいいのに。

「あれ、サラさんどうしたんですかー?」 

「いや、仲間の気配が」

 毒を食らわば皿までという言葉に反応したらしい声が後ろで聞こえた気がしたけど、なんとなくスルー。それよりもタケダのほうが気になったからだ。

「や、ヤナツ! 貴様、なぜ食べている!?」

「なぜって……呼ばれたし、料理出たし、食べてもいいんだろ?」

「お、俺の前でそんなに美味しそうに食べやがって!」

「なんだよ、やるのかモヤシっこ」

「どすこーい!」

「うあああ! 意外と重量感たっぷりなタックル!」

「黙れ黙れ! おまえに俺の愛がわかってたまるかああああ!」

 子供特有の変な争い、勃発。

 ま、ちゃんと料理が並んでるテーブルから離れた場所で取っ組み合いしてるから別にいいや。気にしないでおこう。

「……ん、あそこって厨房だよな。なんで生徒がいるんだ」

 今回の生徒は主役だ、手伝いなんてしなくていいのに。そう思って覗いてみると。

「かのちゃああああん、わたくしもお料理食べたいですよぅ」

「そこ! スパイスの量が甘い! ちゃんと計って!」

「は、はぃぃぃ」

「これでどうだ、インドちゃん!」

「はい、見事なカレーパンです。ニシカワ君合格!」

「よっしゃぁ!」

「ね、ねぇニッシー? なんでこんなに頑張ってるの、もしかしてインドちゃんのことが好きだったり……」

「インドは西だ! つまりカレーは西の料理! それで理由は充分だ」

「カレーパンは日本生まれですわよ」

 イチョウさんの言葉に「え」となるニシカワ君。

「いいの!」

 いいんだ。

「ほら、きびきび動く!」

「はいぃ、ってかのちゃん、きびきびしすぎだよぉぉぉ」

 ……楽しんでるようなので放っておこう。で、後でカレー食べにこようっと。

「しっかし騒がしいなぁ。母さんたちが来れなかったのは残念だ」

 父親あたりは天井にでもいそうな気もするけど、こんだけ騒がしかったら出てこないだろうな、シャイだから。

「おぅトメ! 飲んでやがるか!?」

「うお、出たな。小学校卒業して寂しくなるとか言ってるわりに毎日カカたちと会ってる飲んだくれ教師め」

 言わずと知れたテンである。

「うっせぇなぁ。あっちから会いに来るんだから仕方ねぇだろ。ま、オレが今まで育ててやったんだ、恩を感じるのは当然だがな」

 カチーン。

「ちょっと待て。カカを育てたのは、僕だぞ?」

 ここだけは譲れない。

「あぁん? てめぇは『なんでやねん! なんでやねん!』って隣で言ってただけだろが」

「そういうおまえこそ『うっせぇ! うっせぇ!』って言ってただけじゃないか」

「……ケンカ売ってんのか?」

「先に売ったのはそっちだろ」

「勝負すっか?」

「望むところだ」

 バチバチと僕らの間で火花が散る。

 そして!

「カカでぇす! 始まりましたトメVSテンカ。その勝敗はどうなるのか! まずは男らしさ勝負!」

「テンカ先生の勝ちー」

 カカサエコンビにより、いきなり勝敗は決まった。

「待てえ!! 僕のどこが男らしくないって!?」

「逆に男らしいところを教えてほしい」

「カカ、おまえお兄ちゃんを持ち上げようと思わないのか?」

「あ、体重は男らしいよね」

「そういう持ち上げるじゃなくて……」

 テンはフフンと勝ち誇っている。ムカつく。どこかに味方はいないものか。

「何を言ってるのっ! トメさんのほうが男らしいに決まってるじゃないのっ!」

 いた! 問答無用で味方になってくれる子が!

「ふん、サユカ。トメのどこがオレより男らしいって?」

「戸籍の性別が『男』ですっ!」

 ……や、そゆことじゃなくてね?

「あと、ここは男ですっ!」

 ズビッと指差されたのは、なんと男の証がある場所!

「お、おお……そこはさすがにオレでも勝てねぇ」

「勝つところを逆に見たいような気もするけどー」

「トメ兄、よかったね」

「股間を指差されれてウンウン頷かれてる状況のどこが良いのやらちっともわからんのですけど」

 ブッと吹き出す皆の衆。思わず僕も笑う。あぁもうなんでもいいよ。

「しかしテンも吹っ切れたもんだなぁ。カカたちが卒業となって随分と沈んでたのに」

「んなことねーよ」

「え、ほんと? 沈んでたの?」

「ほんとなのー?」

「テンちゃんかわいーっ」

「んなことねーっつってんだろが!」

「ほらせんせ、顔赤いよ」

「カカ? それはな? 今おまえがオレのほっぺたに苺ジャムを塗ってるからだ!」

「ふふ、舐めてほしいー?」

「わ、サエすけってば色っぽい」

 うん、舌なめずりがエロい。

「てめぇらあああああ!」

 そして始まる追いかけっこ。教師も生徒も楽しそうで何よりだ。

「あーあ、こんな子供で中学も大丈夫なのかね」

「大丈夫だよ」

 あれ、なんだかここにいるのが不思議な人物が。

「友人A、なぜ」

「なぜって、呼ばれたからさ。これからもよろしくということで」

「誰に」

「サカイさんに」

「なぜ」

「俺が中学の担任だから」

 ……はい?

「言ってなかったけど、俺の職業って中学教師な。もう生徒のクラス分けも決まってる。カカちゃんも俺の担任だし、ちゃんと見ていてやるよ。ほら、大丈夫だろ?」

「ここまで不安な『大丈夫』も珍しい」

「なぜだ! 俺ほど常識のある教師はいないぞ」

「単に特徴のない教師Aってだけだろ」

「なにぃ! そんなこと言ってると授業でカカちゃんを苛めるぞ!」 

 間違いなく苛められるのはおまえのほうだと思う。

「……でもまぁ、カカをよろしく」

「おう」

 乾杯、と軽くグラスを合わせる。驚いた、不安もある、でもまぁ、見ず知らずのやつにカカを任せるよりはいいだろう。

 さて、ここらで姉たちがいるという別室の様子でも見てみるか。あいつら、なんでいちいち違う部屋に……お、ここか。

「おーい、なにやってんだ?」

「おぅ、弟君じゃないか」

 そこにいた面子は、意外にもおとなしく飲んでいた。

「おまえらも主役に絡めばいいのに」

「はっはっは、いいんですよ。我々は彼女たちと親しいとはいえ、親や教師ではありません。しばらくここで思い出話に花咲かせ、向こうが落ち着いたあたりで声をかけますよ」

 慎み深いやつらだな。まぁ現に子供たちは一番思い入れが強いだろうテンと騒いでるし、大人な選択なのかもしれないけど。

「で、ゆーたさんとシュー君はなんで泣きながら料理を食べてるんだ?」

「サエ様の成長が嬉しすぎて胃袋が止まらぬ」

「うぅ、こんな美味しい料理初めてだよぅ」

「うむ、シューよ。食え、飲め。共にサエ様の中学への門出を祝おう!」

「白いご飯ですら食べるの久々だよぅ」

「おぉ、そんなに嬉しいか! はっはっは!」

 なんだろう。コメントしづらい二人だ。

「しかしカツコさん、ハイボールとは洒落ていますね」

「ふふ、あんたの作るやつが美味いからだよ。おかわり、ちょうだい?」

「かしこまりました」

 そしてこの二人はこんなにいい感じでいーんだろうか。

「いいですか、タマ? おねーちゃんたちは中学に行くのですよ」

「ちゅー?」

「そうです、ちゅーを学びに行くのです」

 さらにクララちゃんとタマちゃんがこんなところにいるのも解せない。一緒にカカたちと騒げばいいのに。

「ささ、タマも飲むのです」

「おっとっとー」

「ささ、ぐいっと!」

「んぐ、んぐ!」

「いい飲みっぷり、へいへいへい! です!」

「ぷはぁー」

「いい感じに酔っ払ったらおねーちゃんたちのところへ行きましょう」

「うぃっきー!」

「お、出来上がってますねぇタマ! いい返事です! クララもうぃっきーです!」

 この二人も姉やキリヤと同じ意見とは……いやはや恐れいった。ちなみに飲んでいるのはオレンジジュースだけど、なぜかしっかり酔っ払ってる風に見えるから子供は不思議だ。

「よーし、あたしもクララちゃんたちに参加しちゃうぞ! ハイボール飲む?」

「それはやめれ」

 姉の脳天にチョップをかましてから、僕はその部屋を後にした。



 そして、会場へと戻り。

「楽しんでるわね」

「……ユカ?」

 パーティということでおめかした数少ない人間の一人だ。露出の多い赤のドレスでばっちり決めている。でもこの大騒ぎ会場においては場違いだ。

「キリヤの趣味でコスプレさせられたのか」

「そうよ」

「そうなのか!?」

 冗談で言ったのがまさか当たりとは。深いな、このカップル。

「おまえはキリヤのとこにいかなくていいのか」

「いいの、こっちのほうが面白そうだし」

 そう言ってメモ帳を見せびらかすユカ。

「たまに持ってるよな、そのメモ帳」

「商売道具だもの」

「いつも思ってたけど、おまえ何の仕事してるんだ?」

 ユカは一瞬きょとんとし、あーあー言ってなかったっけなどと口にして。

「小説家」

 衝撃の事実を口にした。

「だから君らと一緒にいるとネタになるんだよね」

「じゃ、じゃあ色々とイベント事に顔出すわりに何もしなかったのは、ネタ集めしてたからなのか」

「うん。ちなみにもう君らを題材にして話を書いてたりする」

「なにぃ!? 無断でか!」

「いーじゃない。好評なんだから」

「よくない! それで、その話のタイトルは!?」

「んー、それがまだ仮でね、決めてる最中なんだけど……いい案ない?」

 はぁ……僕はため息を吐いて、問い詰めるのを諦めた。ユカには負い目がある、僕の周りにあるくだらない話をネタにされるくらい我慢しよう。さすがに実名は出してないだろうし。出してないよな? いくらなんでもそこまでは。

「実名よ」

「なにぃ!」

「ちゃんとカタカナ表記にしてるからバレないわよ」

 そ、そうか。ならいい。しかしタイトルか。タイトル……

「主人公は誰だ?」

「カカちゃんとあなた」

 主人公の名前をタイトルに入れるのは定番だよな。でも僕の名前を入れるのは恥ずかしいし……

 ふと、テンに追いかけられているカカを見た。

 逃げ回るカカ、捕まえようとするテンの手がその背中に触れる。

 しかしカカは巧みな体捌きでそれを払い、さらにその手を取ってバランスを崩させ、テンを上手いこと転ばせた。

 倒れたテンに乗っかり、えっへんと勝ち誇るカカ。

「……カカのテンカ」

「へぇ、それでいいの?」

「ネタにするのは小学生までの話だろ」

「そりゃね」

「じゃ、あいつに花をもたせてもいいかと思ってね」

「あらあら、お優しいこと」

「別に」

 テンカの上にカカがいたから、思いついた。そしたら語呂が良かった。それだけだよ。

 カカの天下。考えてみれば、あいつと一緒に暮らすようになってからずっとそんな感じだったな。

 そしてそれは、悪くない天下だった。

 これからも僕らの天下をよろしくな、妹。

「とりあえず、カレーでも食いに行こうぜ」

「あなたと? やだ」

「むぅ、ネタの提供者に冷たいお言葉」

「わかった、じゃあカカちゃんの話を聞かせてくれるなら付き合ってあげる」

 やれやれ、一緒にカレーを食うだけで代償が必要とは。ま、いっか。僕もあいつの思い出話をしたい気分だし。

「じゃ、とりあえず」

 どの話がいいだろう。沢山ありすぎて迷うけど――どうせ夜は長い。小学生なカカの天下を存分に語るとしよう。

 

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 はい、とても最終回っぽいタイトル&中身でしたが。
 事実、小学生編は最終回です。そこで一つの区切りとしてこの話を書きました。

 次からはもちろん中学生編となりますが……これまで以上にゆるーく書いていこうと思います。
 更新日は今から一週間ごと。つまり毎週木曜日に更新することにします。ただ、それが一話なのか詰め合わせなのか三話一度になのかはその週の私の余裕次第(笑 
 ヘタに三日に一度とか不定期にとかするより、こっちのほうがいいかなーと。
 あとまぁ、ゆるーくなるので文字数減ったりするかもしれませんが、カカ天的な雰囲気はそのままにしますのでご容赦くださいな。

 さてさて、改めまして皆様。小学生なカカの天下をありがとうございました。毎日更新も途中から挫折し、不定期になり、感想も途中から返す余裕がなくなってしまいましたが、なんとかここまで書き続けられたのは本当に読者様のおかげです。拙い内容ではございますが、これからもカカともどもよろしくお願いいたします。

 じゃ、中学校で会いましょう。また来週!