N4527BC-186 | chuang62のブログ

chuang62のブログ

ブログの説明を入力します。

Sense186

 一日の間を置いた日。薬の作成には細心の注意が必要であるために十分な時間を確保してから挑む。
 火山地帯から採取したカルココの実は、そのまま畑に植えた。薬草の様に一日置きの収穫は出来ないが一週間で十から十五個の実を根に付ける。
 そして、今回作るアイテムは、セイ姉ぇから頼まれた属性軟膏――エレメントクリーム――の作製である。
 ベースの軟膏部分さえできれば、後は、自分の必要とする属性のアイテムと混ぜれば出来上がる。

 ベースの材料は、先日手に入れた火山地帯の炎熱油。調薬では汎用性の高い液体素材である生命の水。そして除虫香の材料であり、広い範囲に分布して採取できるヌメリコケである。

 まず、下準備として大量のヌメリコケを大鍋でお湯で三十分以上煮ていく。除虫香を作る時は、乾燥させた物を除虫菊と混ぜて、押し固めるが、今回は必要な成分を抽出して残りは破棄される。
 その間、ただ待つだけだが、コケの色素がお湯に抜け、また表面にポツリポツリと油のような物が浮いてきた。
 それが、長く煮詰める程に油の層が厚くなり、大鍋一杯のコケが絞りかすの様に鍋の中を泳ぎ回っている。

「さて、鍋に残るコケを掬い取って、放置しないとな」

 一番の作業。網を持って大鍋で動き回るコケの絞りかすを丁寧に取り除き、後はコケの緑の液adidas originals
adidas originals 店舗
adidas アディダス
体を火から外して冷ます。
 その間に、商品のポーションや蘇生薬を作るが、鍋の中身が冷めるのに時間が掛かり、一通りの作業が終わった後は、本を読みながら、待つ事にした。
 そして――

「もう、これで良いかな? さて、取り出すか」

 大鍋の中には、油と水の層に分かれており、時間経過と共に、油が乳白色の塊となって居る。厚さは一センチもないような層だが、大鍋から取り出せば結構な量になる。取り出した乳白色の蝋は、成型すればキャンドルになるが、今回は、クリームの原料だ。
 大鍋の残りの液は廃棄し、次は、属性決定のためにアイテムを選択する。今回使用する素材を選択する。
 スライムゼリー、ゴブリンの角、ミルバードの肉、スケルトンの骨、昆虫系の甲殻などモンスターの素材を纏め、ポーションや丸薬系の素材も粉末、若しくは液状にして準備しておく。

 固形の蝋が溶けた所で保温装置に鍋を置き換える。その時、工房部のドアがノックされる。

「すみません、作製中のお邪魔をして。セイさんが来てます」
「丁度良い。セイ姉ぇを工房の方に案内して」
「良いのですか?」
「ああ、今回のは見て貰う必要がある」

 しばらくしてセイ姉ぇが工房へと入って来る。セイ姉ぇの所属する【ヤオヨロズ】も同じように薄暗いが、それでも物珍しいようで興味深そうに見ている。

「こんにちは、ユンちゃん。入っちゃっていいの?」
「ああ、時間があれば見てればいいよ。必要ならお茶も用意するよ」
「ありがとう。一応、その後の様子見に来たんだけど……どう?」
「今から本格的な精製? って言っても難しい事は無いさ。根気の作業」

 セイ姉ぇのために紅茶を用意して、差し出す。
 その間も、俺の作業台に用意されている道具を観察しているのが、少し可笑しく思えて小さく笑う。

「そこの小鍋に用意されているのが、ヌメリコケから抽出した蝋。それとこっちの油が先日取った炎熱油。こっちの容器に入っているのは、生命の水。後は、各種属性決定のためのサンプル素材かな?」

 軽く首を傾げて言うと、使う素材の多さにセイ姉ぇが驚いている。

「こんなに使うの?」
「うーん。本来なら、生命の水と各種素材を混ぜるのがベストらしいけど、効果の高い素材や相性の良い素材を見つけるために、基本的なクリーム部分を作ってからベースから少量ずつ混ぜて効果の方向性を見る。まぁ、方向性は同じでも数段効果は落ちるけどね」

 大雑把であり、丁寧でもあるのが調薬センスの特徴だと俺は思う。
 料理と同じ、同じ素材を使っても味が違う。作り方は違うけど、味が近くなる。絶対の作り方は無いが、レシピを多少アレンジしても完成はしてしまう。その結果の差があると言うから良い所であり悪い所だ。

「じゃあ、見せていくけど、ヌメリコケから抽出した蝋を小鍋に取り、保温装置で加熱して液状にする。溶けたら分量を量った火山油を注ぎ混ぜる。別の容器にある生命の水も適温に温める」
「蝋と火山油って混ぜて大丈夫なの?」
「温めれば同じ油だよ。しばらく待って」

 沸騰よりも手前だろうか。温まった生命の水だけを取り出し、蝋と火山油の混合油を少量注ぎ、小さな泡だて器で手早く掻き混ぜていく。

「これって……乳化?」
「そうだね。料理だとマヨネーズ作りを思い浮かべると分かり易いと思うな。少しずつ油を注いで、水と油を混ぜていく。本来、水と油は反発するけど、少量を加えて混ぜ続けると乳化する」

 かなり面倒で、混ぜる動作は、慣れと体力が必要だ。

「本当だ。前に持ってた奴と全然違う」
「不純物であるコケの絞りカスや乳化の失敗が原因じゃないかな?」
「ふぅん。参考になったわ。ありがとう、ユンちゃん」

 そう言葉を続けながら、少量のクリームを作り小分けの容器に移す。一度に大量に作ると失敗しそうなので、数回に分けてベースのクリームを作る。

「っと、ここまでが作る簡単な手順。サンプルにそのクリーム一つ持ってっていいよ」
「えっ? 良いの」
「ああ、それでも見せて比較してやれ」
「まぁ、私も作り方見たから大体は分かると思うな。ユンちゃん、無理言ってありがとう」

 そう言ってセイ姉ぇを送り出す。さて、と一言気合を入れて再び作業台に向かう。
 取り出したノートに素材との相性や組み合わせを書き込むためだ。

 出来上がったサンプルを更に小分けし、小さな容器に移して、属性決定要因の素材を混ぜていく。
 事前に作った活力樹の実の絞り汁を少量と素材をクリームに混ぜることで方向性を確認していく。
 もっと前の段階で使えば、効果に差があると思われるがこれで指向性をチェックするのだ。

 結果から言うと、まずポーションなどの回復系素材などは、決定要因にはなりえない。
 続いて、モンスターの素材を粉砕した粉は、元となるモンスターの属性による。ただし、効果は微弱である。
 また、モンスターの種類。毒や麻痺などの昆虫系などの毒を持っている敵の場合、クリームにマイナス効果が発生する。

 一番良い結果となったのは、血や液体系の素材がクリームとの親和性が高い。
 例えば、ブルーポーションの素材であるブルーゼリーの乾燥粉末をしぼり汁と混ぜて作った場合、水属性のエレメントクリームになった。
 他に、色々な素材で検証したが、相性の良い光属性以外の属性決定要因の素材を見つけた。

「光属性は、居ない事は無いんだが……」

 生憎、現在は在庫が無い素材であり、またそのモンスターからの液体系の方のドロップはレアドロップ。強化素材ではないが、別の用途にも使い道があって全て使ってしまった。

「ネタポーションの材料なんだよな」

 増毛薬と縮毛薬という二種類のネタポーションには作る手間とその後の苦々しいエピソードを思い出す。
 闇の属性決定要因は、縮毛薬の素材で僅かに残っていたが、光の方は残っていない。

「まぁ、ある程度の指向性が見れたのは良かったな。それに強さによる分布の偏りあるからな。安定した収入としてはどうだろう」

 ピックアップした数種類の組み合わせと元となる素材を考察するとモンスター自体の強さや入手可能エリアに差がある。
 これはいざ販売する時、種類ごとに値段のバラツキが起きそうなために、調整して考えないと。他に、もっと安価で扱いやすい素材があれば良いのだが。他に調べることは、効果の継続時間の測定とどれくらいのダメージ減少か……その辺りは、タクにでも渡しておけば、勝手に調べ上げそうだ。
 今までの情報をノートに細かく纏めていく。

「それにしても……ほんと、リアル」

 作ったサンプルの中で一つだけ、調合したが効果の出さなかったクリームを手に取る。
 使った素材は、除虫菊の花のエキスを加えたクリームだ。別に特別な効果や属性変化があるわけじゃないけど、クリームを指先で掬い、自分の手の甲に刷り込む様に塗り広げる。
 そして、塗った後の手の甲に鼻を近づけると、仄かに花の香りがする。
 ステータス上では存在しないが確かな差がある事に少し嬉しく感じる。

「今度作る時は、少し花のエキスでも加えても良いかもな」

 ふっ、と軽く自嘲的な笑みを浮かべて道具を片付け始める。