N1105O-427 | chuang296のブログ

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シフクの時、その5~反抗する者~


「ふう~・・・こっちが黙って聞いてりゃ、ぐだぐだぬかすんじゃないよサンピンども!」
「んなっ・・・」

 突然の罵声に押し黙る一同。もちろん声の主はミランダであり、エルザは「来た!」と思った。自然、足が後ろに一歩下がる。なんとなくこの後の展開が読めているのだ。

「アタシが忙しい間をぬって集めてみりゃあ、どいつもこいつも人の話を聞き終わる前にうだうだと文句ばかりぬかしやがって。てめぇらみてぇなケツの青いガキの面倒見る、こっちに身にもなりやがれってんだ!」
「け、ケツ・・・ケツとはなんだ!」
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「やかましい!!」

 ミランダの獅子のような声に、大人しい者はその場にひっくり返りそうになりながら席に座った。それだけ彼女の声には迫力がある。
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「いいか、要点だけ言うぞ? 今この大陸には目的は明らかではないものの、世界を暗雲で覆おうとしている連中がいる。これらを払うのが我々のアルネリア教の役目であり、それは最高教主の命令だ。そのための方策は色々と練っているが、このアルネリアに結成された『無限の羽の傭兵団』、通称『イェーガー』は囮としての役目を負うと考えてもらって結構だ。これに張り付き、代表を始めとした人員を保護しつつ、寄ってくる敵を叩きその目的を掴むのが我々の任務だ。巡礼の者はその役目の性質上、隠密の様な行動をする事もあり、戦闘能力にも長けている。その我々にしかできない仕事だ、慎んで引き受けろ。これは最高教主の命令である。それでも文句がある奴は、いますぐ前に出てその意志を示せ!」

 その言葉に一同はしんとなった。内容よりも、ミランダの剣幕にであろう。彼らは自分達の頂点に立つ者を初めて見た者も多いわけだが、最初はミランダになんとも儚げな印象を持った者が多かった。当然のことだが、ミランダの容姿には傷一つなく、輝くように美しいその容姿は戦いと無縁だと一瞬見えたのだった。数多の戦場をかけぬけ、負傷こそ名誉などと考えている巡礼の者にはこれは屈辱、あるいは自分達のして来たことを否定されたような気分になったのであろう。
 だが気付く者は気づいていた。ミランダから漂うその雰囲気に、血の香りに。ただならぬ数の魔物を狩って来た時期のある彼女には、隠しようのない戦場の雰囲気と言うものがある。敏感な者はそれに気がついたのだ。
 そしてミランダが見回していると、ふっと手を上げている者が目についた。ミランダがみると、それは顔にいくつも傷のある、シスターのようだった。容姿から察するに、まだ若そうではある。ミランダは彼女の発言を促してみる。するとそのシスターは前の人間の席にがんと足を乱暴に乗っけ、前の人間が驚くのにも構わず話し始めた。

「まあとりあえず俺達が集められた理由はわかったがよ。具体的にはどうすんだ?」
「どうする、とは?」
「さっきまでぴーちくぱーちく騒いでいた、明らかに使えん連中共はいらねぇんじゃないかって話だよ。この程度で騒ぐような連中、俺には不要だ。少なくとも、命を預ける気にはならないんだがね」
「ああ、そのこと。心配しなくても、今からある程度篩(ふる)いにかけるわ」

 ミランダがにやっとしたので、そのシスターは話がわかる人間だとミランダの事を判断したのか、彼女は嬉しそうに笑うのだった。

「へえ。見た目と違って話せるな、あんた。さすが俺達を仕切ろうってだけある。んで、どうやってやるんだ?」
「・・・もう始めてるわ」

 ミランダがそう言うと、先ほどまで立っていた連中が次々と座り始めた、いや、正確にはその場に崩れ落ち、びくびくと白目を向いて泡を吹きながら痙攣を始めたのだ。俄かに騒然とする一同。そのシスターも席をがたりと立ったが、急に胸に息苦しさを覚えて喉を押さえた。

「こ、こりゃ・・・ぐっ」
「呼吸ができないでしょ? そろそろ効くかと思ってたけど、あんた達があまりに言う事聞かなさそうだから、大人しくさせるために毒を播いたわ。空気と同じ色、無味無臭のね。普通の人間じゃ気付かないようなやつよ。というより、使えない人間はアタシの部下に必要ないし、この話を他所でぺらぺらと話されても困るのよね。あくまで事は秘密裏に進める。そのためにあんた達をここに集めるのにまる二月以上要したんだから。だからこんな程度の毒で死ぬような連中なら、そのまま死んでくれて結構よ」
「な、なんて奴・・・だ。テメェ、それでもシスターか?」

 顔に傷のあるシスターが苦しそうに、だが精一杯の悪態をつく。ところがミランダは笑ってそれをいなした。

「今さら何を言うの? あなた、強面の割に甘い事を言うのね。巡礼の任務はもとより、失敗すれば即死亡が当たり前。その死についてアルネリアは感知しないし、必要となればアルネリアとは縁が無かったことにされてしまう。それでも大陸には我々を必要とする人達がいるから、アタシ達は望んでその任務についたはず。もっとも多少事情の違う者はいるでしょうけど、自らの傍にある死を認識できいなようじゃこれからの戦いは務まらない。
 これからの戦いは本物の地獄になる。少なくともそういう連中が相手になる。その戦いについてこれない様な人間は、今ここで死んだ方が百倍マシね」
「い、言うじゃねぇか~」

 顔に傷のあるシスターがぐぐっと体を持ち直し始める。加えて自分の魔術で治療しているのか、その呼吸が徐々に整ってくるではないか。気合もあるだろうが、巡礼の一員だけはあるとミランダは多少感心する。それに、思ったよりも人数が倒れていない。全体の半数以上は残っているだろう。

「あら、思ったより残ったわね。なかなか良い感触かも」
「何が『思ったより』だ! テメェの涼しい面、いますぐブッ飛ばしてやる!」

 強面のシスターが背中に担いだ麻袋から鉄球を取り出した。それが彼女の武器なのだろう。だが一方のミランダは楽しそうにそのシスターを見て笑った。

「喧嘩っ早いわね。アルフィから見たら、私もこんな感じかしら?」
「わけのわかんねぇこと喋ってんじゃねぇ! 死にやがれ!」
「それが難しいから困ってきたのに。なんとも皮肉な話ね」

 ミランダに立ち向かってきたのは彼女だけではない。他にも何人もがそれぞれの武器を取り出し、ミランダに駆け寄ろうとした。だがその前に、アルベルトが何やら手に紐を持っているのがそのシスターの目に入った。
 シスターがはっとする頃には、アルベルトの手はその紐を引いていた。

「まずっ・・・」

 シスターは反射的に頭を守ったが、それは無意味だった。かのじょは既に空中に飛んでおり、防御が不能だったから。それに、攻撃は彼女達の頭上からだった。
天井の一部が開くと、そこから大量の粘液が流れ出てきた。それらは意志を持つように彼女達にまとわりつき、その動きを止める。

「この粘液・・・スライムかよっ!」
「そう、それもちょっと特製だわ。魔術で作り出した、いわゆる式神の一種。使い魔とも言うわね。神聖系の攻撃に強いから、貴方達では対処に苦労するかも。さて、どうするかしら?」
「どうするもこうするも・・・」
「吹き飛ばせばいいだけの話でしょう」

 そう言ったのは、強面のシスターと共にスライムに捕らわれた神官の一人。彼が何やら呟くと、周囲のスライムは弾けとんだ。それどころか他にも、周囲のスライムを溶かしたり、てなづけたりとめいめいがそれぞれの手段であっという間にスライムの呪縛から解き放たれていく。
 ヒュウ、と口笛を鳴らしたのはミランダ。

「やるわね。伊達に巡礼の任務は負ってないみたい」
「当然だ! 我々はそれなりに修羅場を経験してきているんだ。それを一網打尽にしようなどと――」
「できちゃうのよね、これが」

 ミランダはまだまだ余裕であった。演台にいるミランダに襲いかかろうと、それぞれの者達がさらに一歩踏み込んだ時である。彼らの足元にばちりと電流のようなものが走り、彼らは一斉にその動きを止めたのだった。


続く
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次回投稿は、3/1(木)15:00です。3月前半も連日投稿する予定です。