N4527BC-170 | chuang274のブログ

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Sense170

 カウンター席に用意した道具の前に立ち、鍋に砂糖をまぶした果実と水をコトコト煮込む。
 時折、泡の様に浮き上がる灰汁を取り除き、じっくり時間を掛けて加熱していくと、辺りには、甘酸っぱいような匂いが立ち込める。
 表通りの遠くでは、複数の楽器が奏でるであろうメロディーが聞こえる。

「どっかのギルドがパフォーマンスでやってるのか?」

 ケルト調の民俗的な響きと耳に心地が良いリズム。少し様子を見に行きたい衝動に駆られるが、目の前の鍋を放置するわけにもいかない。
 ジャムと言うには粘性が低くそれを焦げ付かない様に掻き混ぜる中、透明感のある響きと躍動感のあるリズムにリゥイは、店の定位置で寝そべったまま耳を傾け、ザクロは、二本の尻ブーツ ティンバーランド
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尾を器用に揺らし、リズムを取っている。
 その様子に、微笑ましく感じながら、店内に充満する甘い匂いを感じ取り、機嫌良く取っていたリズムを崩すザクロに、色気より食い気か。と内心苦笑する。
 そして、甘い匂いの誘われたのか、アトリエールの入り口から中を覗いている人が居た。

「ヤッホー。狐耳堪能しにきたわよー」
「客じゃないなら、帰れ」

 ジト目で睨む先には、猫耳ヘアバンドを着けた少女が入ってきた。
 俺の苦言を無視して、ザクロとリゥイを撫でに行く。リゥイはうんざりと言った感じだが決して嫌がらず、そして、ザクロは、気持ち良さそうに目を細め、二本の尻尾をへにゃり。と地面に横たえて、されるがまま、耳をくりくりと擦られている。……いいなぁ、俺も後でやろう。
 それにしても、ギルド【新緑の風】のケモミミ好きのこの少女は、意外に凄いと言える。
 対人恐怖気味のザクロと人に無関心のリゥイを撫でようとする人は、多いのだが、大抵怖がるか、幻影で逃げられるのだが、彼女に限ってそう言う場面を見たことが無い。もしかしたら、今までの行動で好かれ易い隠れパラメーターでも存在するのかもしれない。

「良いのう、良いのう。この絹のような滑らかな肌触りの白ともふもふな毛並みの良い黒。どちらも極上ですな。ぐへへへっ……」

 まぁ、発言は不穏なのだが、クロードの様にネタや自身のキャラ付けの面が強いのだろう。しばらく、本人が満足するまで待っていると、思い出したかのように顔を上げる。

「ごめんね。やっぱり、ケモミミパラダイスが目の前にあるとどうしても自制心が……」
「いや、もうなんか諦めたよ。ちょっと待ってくれ。今、この作業終わるから」

 俺の一言を聞いて、ジャムが完成すると解釈したのか、撫でられ蕩け切った二匹は、すぐに立ち上がり、期待に籠った眼差しを送って来る。

「はぁ~、誰に似たんだか」
「本人に似たんじゃない? ユンって、別にレアアイテムを求めるより料理してる方が、性に合うでしょ」

 そうだろうか。と思いながら、綺麗なビンにジャムを詰めていく。分量にして一本とちょっとだろうか。一本に入り切らなかった分は、試食する予定だが……。

 じぃー、とめっちゃガン見して来てるよ。そんなに物欲しそうに見なくてもこの場に居るんだから少しくらい分けるさ。

「パンの耳で良いか? 味見程度だけど」
「ありがと」

 別皿の出した杏ジャムとサンドイッチには使わないパンの耳を取り出す。
 俺の膝に飛び乗るザクロと寄り添うリゥイに順番にジャムの付けたパンの耳を鼻先に差し出せば、美味しそうに食べる。

「美味しいね。それにこれって【気絶】の耐性を与えてくれるのか……」

 どうやら、砂糖漬けじゃなくてもトゥーの実を使った料理は、耐性を与えてくれるようだ。だが継続時間が三分。一回の戦いの平均時間では、長い方だが、戦いの後に一々食べていたのでは手間だ。うーん、味は良いが効果は微妙だ。

 だが、自分のパートナーであるザクロとリゥイが嫌がらずに食べる姿を見ると、悪くは無いと思う。それと同時に、以前、ジャムで色々な所を舐められた記憶が呼び起されて、微妙な気持ちにもなる。
 まぁ、その気持ちは置いておいて、膝に座るザクロを軽く抱きしめ、耳の後ろと首の下を重点的に丁寧に撫でる。ここが一番気持ち良さそうに目を細めるのだ。
 ザクロは、先にリゥイに譲るために元の定位置に戻るが、これは、後で膝枕を要求されるな。と思う。

「それで、要件は何だ? 消耗品なら棚にサンプルがあるだろ」
「それとは別の相談なんだけどねー。うちがケモミミ布教の他に、初心者支援やってるのは前話したよね」

 いや、布教活動は、お前個人でやって、初心者支援が本来に活動だろ。とツッコミを入れそうになるのを堪える。

「それで、今度入った子が、弓センスを持っているんだよ。それで、同じ弓使いの意見を聞きたくて」
「弓かぁ……。って言ってもな。種類が多くあるし、種類毎で戦い方が変わるのはどの武器でも同じだろ。弓なんてそれが顕著だ」

 同じ剣でも重量で叩き切る大剣と薙ぐ様に切り払う刀、突きを重視した刺突剣とでは、用途も戦い方もまるで違う。
 大剣で刺突剣の様に急所突きは、難しく、刀で力任せに敵の防御を突き破れない。
 それと同じで弓も種類は、多い。俺が使っているのは、扱いの特に難しく、射程と威力を重視した長弓だ。
 他にも、連射性を重視した短弓や小弓や取り回しの簡単だが装填に難あるクロスボウなどがある。また、生産職の手に掛れば、種類の長所短所を工夫で何とかなるが、俺の【黒乙女の長弓】は、特にそう言う部分を弄らずにその種類本来の性質を伸ばしている。

「その辺は判っている。って、でサンプルとして借りてきたのが、これ――」
「弩弓、クロスボウの分類かぁ。戦い方は?」
「クロスボウがメインだけど、接近されたらショートソードに切り替える。まぁ、典型的なアニメのレンジャーだね」

 その一言に納得すると同時に、そのプレイヤーも俺と同じように最初に命中率の低さという壁にぶつかったのだろう。俺が腐らずに【弓】を成長させたのは、半ば意地のような物や愛着であるが、同じ様な壁で挫折する姿を見るのは忍びない。
 それを分かって、ベルは、俺に相談を持ち掛けたのか。

「それでベルは、どういうアドバイスが欲しいんだ? 極論言うと、レベルを上げろしかないぞ」
「意地悪言わないでよ。生産職ならちょっと良いアイディア出してくれないかな?」
「方向性にも寄るぞ。パーティー主体か、ソロ主体かでも戦い方が大きく変わる」

 俺は、単独行動が基本で接近する前に高威力の遠距離で安全に仕留める。だが、連射性と装填に難のあるクロスボウだと、それは難しい、長弓の連射は、個人の技量や工夫で幾らでも早くなるが、クロスボウの機構上、時間が掛かる。連射性を重視した連弩(れんど)もある物の、これは射撃よりも集団が並び、矢の雨を降らすのに適している。下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる、だ。

「――と、だから難しいんだよ。ソロなら速度上昇系センス付けて、バックで走りながらの射撃すれば、時間は掛かるが仕留められるだろ」
「残念ながら、パーティーなのよね。まぁ、それ位は、本人が気がついているからやっているけど、まだまだ。本人の希望は、武器をクロスボウのまま、装填速度の短縮と命中率の向上なのよね」
「はぁ~。まぁ、構想はある」
「ホント! やっぱり頼れる生産職!」
「ただし――構想だけで俺一人じゃ無理だ。そもそもクロスボウ本体に機構を加える必要があるから木工師の手が必要だ」

 もっと言えば、生半可な木工師に頼むのも憚られる。殆ど、梃子(てこ)やギアで弦の巻き取りギミックの組み込んだ。そう――機械弓なら基本構造を変えずに問題点が改善できる。

「簡単に概要を説明すれば、発射までのプロセスを全部、絡繰り仕掛けにして装填を無くすんだ。そうすれば、戦闘での位置取りに時間と思考が割ける」

 自身のインベントリから取り出したノートに簡単な機械弓の絵を描いていく。とは言え、通常のクロスボウに円盤が取り付けられた様な形だ。
 この円盤には、矢が取り付けられており、トリガーを引くと、円盤から矢が放たれる。その後、ギミックによって円盤と弦が動き、次の矢が補充される。
 円盤にセットした矢の強度を上げれば、投擲物の自動帰還機能から円盤自体の交換を最小限にすることが出来る。現実ではあり得ないシステム的な補助も受ければ、今以上に戦えるはずだ。

 構想の一つとして提案したが、欠点は幾つもある。
 一つは、通常の矢を使った場合、円盤が大き過ぎてしまう。せめてダーツ程度の大きさにしないと駄目だが、それだけ攻撃力の低下が懸念される。
 サンプルで持ち込まれたクロスボウ自体も結構な重量があるが、ギミックを着けた場合、更にブーツ ティンバーランド
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重量が増す。それを取り回せるだけのステータス。
 また、武器自体が一点物となる。初心者にそれだけの額が出せるか。

 探せば、問題や障害は多いだろう。

「そんなぁ……」
「けど、何時までも【弓】センスが不遇扱いってのは面白くない。一応、知り合いに提案してみるよ」

 問題点を聞いて、感情に呼応した様にへにゃりと垂れる猫耳ヘアバンドだが、俺の一言で再び活力を取り戻す。

「ただ、提案しても出来るとも限らないし、武器が要求するステータスを本人が満たしてなければ失敗と同じだ。それに必要な費用とかは、お前らに請求するぞ」
「うんうん! 分かった! その話でお願いね!」
「一応、こっちから提案するだけで、知り合いに無理強いは出来ない。だから、駄目だったら、そっちが適当な木工師見つけて頼んでくれ」
「分かった。でも、ありがとう! 私もこれから初心者支援に行くから!」
「お、おい……行っちまった」

 全く、嵐のような奴だと思いながら、ビン詰めのジャムを仕舞い込み、奥の工房から本やノートを持ってくる。
 今まで収集した情報や技術、関連項目を簡単に纏めて、企画書の様に作り直す。

 その間、リゥイが膝枕を要求したので、硬い店の床に座って作業する。さらさらの真っ白な鬣を撫でながら、必要なアイテムや情報を纏めていく。