第百五十五章:緊張を解す
私が所属する分隊は夜の道を馬に乗り進んでいた。
夜も行進する事にヴィン・ルビーを始めとした親衛騎士団は慣れていないのか何処か不安そうに見えた。
「そんなに不安そうな気を出すな。こっちまで滅入る」
ヘンさんことフォックスが苦言を漏らした。
彼は分隊長を務める為、前方より後ろに居るが声は聞こえるようにしていた。
「で、でも、副団長」
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「でもじゃない。お前等、最初の勢いは何処に行ったんだ?」
フォックスはかつての部下達の士気モンクレール マヤを高めるように言い続けた。
「お前等にとっては二度目の戦だ。初陣みたいに赤っ恥を掻きたいのか?」
ヴィン・ルビーを始めとした親衛騎士団はザンビア平野が初陣だったが、決して華やかな活躍はしていない。
彼を始め大多数は我先にと逃げ出した。
指揮官の命令ではなく恐怖心に負けて逃げた。
これほど戦う者達にとって恥は無いだろう。
しかし、初陣というのはそんな物だろうと私は頭の片隅で思っていた。
私の初陣は砦の攻防戦。
あの時は私たちが殿という事もありプレッシャーは強かったが、逃げたいという感情は無かった。
テツヤ殿達が一緒に居たからなのも理由と言えば理由だが、それ以外で言えば・・・・・・・
彼等が敗退してきたのが理由だ。
王国の精鋭と謳われる彼等が敗退して帰って来た。
それに衝撃を受けたが逆に彼等が出来なかったなら私たちがやってやるという気持ちが芽生えた。
それが私達を奮い立たせたのかもしれない。
そう考えている間もフォックスは喋り続けた。
「リンクスたちを見ろ。まだお前らより若いのに落ち着いているぞ」
「そ、それは、戦い慣れているから・・・・・・・・・・・・・・」
「慣れていませんよ。私は」
私はヴィン・ルビーの言葉を遮って口を挟んだ。
「未だに緊張しています。ですが、それで良いんです」
過度な緊張は駄目だし、緊張が無さ過ぎるのも駄目だ。
適度な緊張がちょうど良い。
「ですが、貴方達は度が過ぎます」
「度が過ぎると言ってもどうすれば良いんだ?」
「それは自分で考えて下さい」
無責任かもしれないが、こればかりは自分で答えを見つけてもらうしかない。
「無責任だな」
案の定と言うべきか・・・ヴィン・ルビー達は当たり前のように言い返してきた。
「ですが、テツヤ殿が居たとしても同じ事を言うでしょう」
ヒントは与えるが答えは自分で探せ、と。
「悩んで答えを見つければ、それだけ貴方達は成長する。私はヒントも与えませんが」
「テツヤより酷いな」
フォックスはくっ、と声を震わせて笑った。
それを聞いたヴィン・ルビー達もまた笑い出した。
流石は元副団長、と私は感心した。
副団長は団長の補佐だが、言いかえれば軍曹みたいに兵達を鼓舞し士気を上げる役割もある。
だから、ある意味では団長を選ぶより副団長を選ぶ方が難しいと私は思うし、またそれになるのも難しい筈だ。
それをフォックスはやっているのだから凄い。
下士官・・・・そうでなくても大尉くらいにはなれそうな感じだ。
今にして思えば、フォックスは階級が無い。
いや、他の者もそうだ。
まぁ、混乱していたのも理由として上げられるが。
しかし、それが後々面倒な事になりそうな予感がするから作戦が無事に終わった暁には進言してみようと思う。
「所でラ・・・リンクス。質問しても良いか?」
ヴィン・ルビーは私の名を呼ぼうとしたが、少し間をおいて私の渾名に言い直した。
「何ですか?」
「お前さんは、俺らの団長をどう思う?」
「どうとは?」
「正直に言って、全てに対してどう思うって事だ」
「・・・正直に言って良いんですか?」
私は訊き返した。
「あぁ。頼む」
「では、言います。私は、あの女はただの要らない荷物だと思っております」
「要らない荷物?」
「はい。最初は下種女でしたが、色々とありまして要らない荷物に格下げしました」
「格下げ・・・それ以上、落とす気は?」
「また何か変な事をしたら落とします。それか実力行使で痛い思いをさせる積りです」
「厳しいコメントだな」
フォックスは苦笑し獅子頭軍団の一人もまた苦笑した。
「確かにそうだな。まぁ、我は遠慮しておくぞ。我が主からも言われたからな」
食べると腹を壊す、と・・・・・・・・・・
ガルムの言葉にヴィン・ルビー達もまた笑い出した。
「腹を壊す?いや、寧ろ口に運んだ時点でもう壊すだろ?」
「有り得るな。それ」
彼等はガルムの言葉に味付けをするように喋り出した。
慕ってはいるが、些か迷惑な・・・嫌いな所もあったと言う所か?
「要らない荷物はどんな団長だったんですか?」
私は気になり訊ねてみた。
「一言で表すなら・・・愚直かな?」
愚直・・・的を射ている気がした。
「何から何でも枠に嵌めようとしている所があったし、融通も効かない。おまけに高圧的な態度と来たもんだ」
欠点ばかりだが、良い所を上げるなら・・・・・・・・・
「負けず嫌い、根性、真っ正直、だな」
どれもこれも女としてはどうなんだ?と思うが、それがあの女の良い所なのだから仕方が無い。
「後もう一つ上げるなら容姿は良い事だな」
まぁ確かに・・・・・
「容姿は良いですね。性格は私から言わせれば最悪ですが」
「本当に君は厳しい言葉を吐くな。鷹と付き合いが長いからそうなるのか?」
「まぁ・・・否定できません」
実際テツヤ殿と付き合うようになってからかなり性格が悪くなった、と自分でも思う。
あの女に関しては本当の言葉を吐いているだけだが・・・・・・・・・
「気になっていたんだが、あの顔とあの性格で人に好かれていたのか?」
特に女に、と付け加えられた。
「長く付き合っていればあの方の人柄が分かると思いますよ?女性には好かれていましたね。軍曹よりも」
「あの男の場合は、あの色情狂とも言える部分を無くせば大丈夫と思うが・・・・・・・・」
「学習能力が無いから無理ですよ」
「確かにそうだな。しかし、それでも精鋭部隊に所属していたんだろ?」
「はい。最初の部隊も精鋭でしたが、更に上の部隊もあるんです」
その部隊から更に上に行く者が多い為、特殊部隊の登竜門的な存在と言われている。
現在はグリーン・ベレー養成機関と言われているが。
「そんな所に居たのに、どうやってああなるんだろうな?」
「それは不明です。余り過去を話しませんから」
軍曹を始め、3人は極端に過去を話さない。
それは知られたくない事が多いからであろう。
特に軍曹の話は余りに酷い経験があるから尚更とも言える。
「3人とも過去は余り話さないのか。まぁ、触れて欲しくない部分があるからだろうな」
ヴィン・ルビーは私の考えを口に出した。
「そうですね」
私はそれに淡泊な相槌を打ちながら煙草を取り出して銜えた。
マッチで火を点けながら煙を肺に入れた。
「それは鷹が吸っている奴だな?」
ヴィン・ルビーは私が煙草を吸った事に気付いて訊ねて来た。
「えぇ。女神の抱擁と言われる煙草です。一口吸いますか?」
火を点けたままの女神の抱擁を差し出す。
と言っても彼だけが吸う訳ではなく親衛騎士団達が全員吸う。
皆、好奇心旺盛だ。
お陰で彼の所へ着いた時には、もう擦れ擦れだった。
それでも彼はそれを吸って煙を吐いた。
「・・・これが女神の抱擁か。良いな・・・本当に女神に抱き締められる気分だ」
緊張が嘘のように消えて無くなる、と彼は言い他の親衛騎士団も同じだった。
「なぁ、リンクス。これまだあるか?」
「ありますけど、多くは無いです。吸う人は多いので」
ゲンハルト様、プロイセン様、ワイド中尉、フォックス、私、チャレンジャー・・・・などなど数えたら切りが無い。
「もっと早く出会いたかったぜ」
こんな良い女を放っておくなど男として恥だ、と彼は言った。
「まぁ、運が悪かったとしか言えないですね」
「まぁな。だが、出会えたんだ。見放されてはいないさ」
確かに、と私は頷いた。
女神の抱擁を吸ってから彼等の緊張は解れていた。
『大した煙草だ・・・・・・・』
私は新しい煙草を銜えながら女神の抱擁という名は伊達ではないな、と改めて思った。