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伝わる思い、伝えられない思い、その4~アルドリュースの史実後半~

「だが私はこうも考えた。そもそもなぜ私が彼の傍にいることを許されているのかとね。国一つどうにかしようと言う男が、私一人どうにか出来ない訳はないのだ。それに私は彼のおかげで出世街道に乗っていた。私もまた彼の恩恵を受けていたのだ。その道を踏み外すのは自分の将来を閉ざすにも等しいし、また友人を手にかけてまで侵すようなことにも思えなかった。今の妻も彼に引き合わされた侯爵令嬢だしね。結局私は利己的だったのさ。国の在り方よりも、自分の出世が惜しくなった。とんだ不忠者だよ、私は」
「・・・」
「まあそれはともかく、そこからは一直線だった。アルドリュースは破竹の勢いで出世したし、その5年後には将軍と共に軍の最高会議に出席するようになっていた。また文官としても数々の献策を出し、それが悉(ことごと)く王との会議で議題となっていった。ついには王の覚えもめでたく、彼は文官としての最高会議にまで呼ばれ、登城する機会が多くなっていた。ミューゼ殿下は日に日に美しく、貞淑になりながらアルドリュースを見守っていたよ。
 恐ろしいのは、その彼の出世を妬む者がほとんどいなかったことだ。時に彼の敵となる者が現れそうになると、その者は左遷されるか、あるいはすぐに黙るようになった。騒いだのはわずかのことだったから誰も気にも留めなかったが、今から考えれば全てアルドリュースが手を回していたのだろうね。
 そして彼はついに武官として将軍に、文官として当時の宰相の補佐にまで上り詰めた。彼がマイティーマスターの称号を得たのもそのころだ。現在では大陸に2名しかいない、騎士の最高の称号の一つマイティーマスター。大陸中の騎士の憧れでもあるその称号を持つ男が自分の部下であることに、国王もご満悦だった。そしてその頃にはミューゼ殿下とアルドリュースは人目も憚らず逢瀬を重ねるようになっていた。いつ婚約が発表されてもおかしくないほどにね。彼がこの国に現れてから、10年が経過していたころだ。そしてどうみても彼の人生の絶頂期・・・突然彼は姿を消した」

 その言葉に、部屋は沈黙に包まれた。給仕によ
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 口を開いたのは、またしてもターシャだった。彼女はどうも好奇心に勝てない性格らしい。

「なぜ・・・もうすぐ全てが手に入るのに?」
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「それはわからない。今でも私には謎のままだ。結局のところ、私はアルドリュースという人間を何もわかっていなかったのだろうね。彼と共に過ごした時間が最も多かったのは私で間違いがないだろうが、それでも彼の全てを知ることは出来なかった。
 その後、姫は方々手を尽くしてアルドリュースを探したが、その行方は杳(よう)として掴めなかった。国王などは血眼になって仇を追うつもりで探させたが、それでもアルドリュースの行方は毛ほどもわからなかった。まあ殿下の私室にまで誰にも気づかれずに潜入できる男だから、当然と言えば当然だな。その内殿下には手紙が来たのか、彼女は一月ほど部屋から出て来ぬ時期があった。その後はそこの女性が知っての通り、東に名だたる貴婦人として殿下は暮らされている。そして公爵家より伴侶を選び、今に至るというわけだ。
 私はといえば、彼から便りが届いたが、それは誰にも見せぬようにとのことだった。その手紙には、彼が私に感謝している旨がしたためてあり、これからも自分と友人でいて欲しいとのことだった。私はもちろん快く引き受けたが、どこか国に対する後ろめたさが無かったわけでもない。だが私はそれからも彼が提示する献策をまるで我が案の様に提出し続け、5年前から宰相の任を拝命している。妻も随分前に侯爵家の令嬢を娶ったのだが、それもまたアルドリュースの作戦を聞いたうえでのことだった。面白いほど彼の作戦は当たったよ。私は恐ろしくなりながらも、彼の言う事を聞かずにはいられなかった。だって、全てが上手くいくと約束されたようなものなのだからね。
それが私の知る、アルドリュースの真実だ。アルフィリース、何か聞きたいことはあるかい?」
「・・・一つだけ」

 アルフィリースは静かに発言した。彼女としても心中穏やかでは決してなかったが、どこかで予想できなかった事でもない。

「なぜこのような事を私達に話すのです?」
「それがアルドリュースの遺言だからだ」

 ハウゼンの答えは明快だった。だがその顔はやや苦悶の表情である。

「死期を悟ったアルドリュースは私や他の人間に書簡をしたためている。私の所に来た書簡の内容は、一つはこの国に関する国家百年の計。彼なりに後ろめたさがあったのか、この国がこの先どんな方向に出るべきか、その事に関して延々と述べてあったよ。その気なれば、この東の覇者となる方法まで書かれていた。
 そして一つは自分に関する全ての事を、自分の弟子であるアルフィリースに教えてほしいとの事だった。なぜそんな事を彼が思ったかは書いていなかったがね。
 さらに一つは、アルフィリース。君の願いを出来る限りの範囲でかなえて欲しいとのことだった。それが私に対する恩返しになるだろうとね。
 さて。そういうわけだが、アルフィリース、君は私に何を望む?」

 ハウゼンがややすっきりした表情でアルフィリースの顔を覗いたので、アルフィリースは悩んでいた。その質問はアルフィリースにとっても唐突だったので、いくつか頭に提案はあったのものの、どう答えれば最善なのかがわからなかった。
 アルフィリースはやや考えて、首を振った。

「今の私にはわからないわ。話が唐突過ぎるもの」
「そうか。ちなみに私の提案としては、君を我が国の騎士として採用するなども考えられるがね」

 ハウゼンが少しニヤリとしながら提案したので、アルフィリースは少しきょとんとしつつも、さらに切り返した。

「それも美味しいけど、一国の宰相に自由に要求できるせっかくのいい機会なのに、それでは足らないわ」
「ほう。では何が良いかな?」
「あなたの養子、なんてのも面白そうだけど、ミューゼ王女が社交場や他国に大使として赴くときに護衛として同行する権利、なんてのはどうかしら?」

 そのアルフィリースの提案に、ハウゼンは久しぶりに背筋がぞわりとした。宰相として様々な場に出向き、それなりに修羅場もくぐった彼であるが、だからこそ彼が一人の人物を恐ろしいと思うのはアルドリュース以来だったかもしれない。
 目の前の女は自分のお墨付きだけでなく、名声・権利・地位・後見まで全てが手に入る方法を提示したのだった。ハウゼンはこういった事をぬけぬけと言うアルフィリースの神経の図太さにも呆れたが、それよりもその頭の回転の速さに驚いたのである。

「・・・なるほど、確かに君はアルドリュースの弟子だよ」
「そう思うわ、自分でもね。性格が悪いのは師匠譲りかも。でも今日はゆっくり宿に帰って考えたいの」
「ならば私の邸宅の一室を使うといいだろう。来客用の部屋などいくらでもある。なんならしばらく逗留するといいが・・・?」

 そこまで言ってハウゼンは、自分達がいる部屋に荒々しく近づいてくる足音に気が付いた。つかつかと近寄る足音の主は、明らかに怒っている。
 ほどなくして扉がバン! と開かれ、足音の主が予想通り怒声と共に入って来た。


続く
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次回投稿は10/20(木)15:00です。