夕陽が傾き、病院に赤い陰を落とす。
俺は缶ジュースを片手に病院の入口に座っていた。
ジュースを一口口に運び、大きく息をつく。
ぼんやりと外を眺める。
『梨奈の精神的な柱があんたのように、あんたの柱は梨奈なんだ。』
実際、そのとおりだった。
いつの間にか、心のどこかに穴が空いたような空虚感があった。
今までにも、江岸を突き放したことは何度もあった。
それなのに、今頃になってこんな空虚感に襲われるとは。
歓迎会から、俺の中の江岸はどれだけ大きくなっていたのだろうか。
『あたし、工藤くんの最初の友達になる!!』
あの時、俺は認めてしまった。
人見知りが激しく、人間嫌悪にまで陥っていた自分が、友達と。
それから、いろいろあった。
(俺の柱は江岸…)
なら、俺は柱を失った不完全な住宅なのだろうか。
岸ノ巻へ帰ったら、ちゃんと謝ろう。
そう思って、ふと視線を細めた。
夕陽に逆行して、2人の人のシルエットが浮かんだ。
やがて、その2人の姿が見えたとき、俺は心の底から驚愕した。
江岸が、酒井さんと歩いてきたのだ。
酒井さんは数ヶ月の間に随分と白髪が増えたようだ。
店が安定しないのだろうか。
なにより、江岸の目は赤く腫れ上がっていたが、それでもいつもの暖かさを取り戻している。
「なんで…酒井さんと江岸が…?」
思わず立ち上がっていた。
俺の姿を確認した江岸が俺に駆け寄ってきた。
汗がほほを流れていたが、それでも江岸は拭おうとしない。
「工藤…くん」
声を出そうにも、のどがからからでうまく出せない。
「おまっ…なんで…?」
なにより、頭が混乱していて、まとめることができない。
「久しぶりだね、工藤くん。随分この数ヶ月で大人っぽくなったね」
酒井さんが追いついた。
俺の頭を不器用になでてくる。
子供ができないまま奥さんを亡くしたらしく、俺を孫のように大切にしてくれていた。
この人には、今でも感謝している。
「詳しい話はこちらの江岸さんから聞いたよ。麗菜さんが入院しているって、本当かい?」
俺はまじまじと江岸をみる。
「…俺、お前に叔母のこと言ったっけ?」
「浮島さんから聞いたの!」
胸を張る江岸。
っていうか、患者の情報を他人にながすのは、医者志望としてどうなのだろう。
「……さっき言ったはずだぞ、江岸。お前にできることは何ひとつない。帰ってくれって・・・」
「あたしが帰ると思う?」
江岸が意地でも動かないとばかりに仁王立ちする。
「…友達かな、柊作くん」
病院から男性が出てきた。
萩本篤史、叔母の弟だ。
篤史さんは酒井さんに挨拶すると、俺に向き直った。
「…はい」
俺がつぶやくと、篤史さんはやさしく江岸に言った。
「君も来てくれないか、岸ノ巻の人なら、姉も最期に喜ぶだろう」
「最期って…?」
江岸の問いに、篤史さんが今度は俺の方を見て答えた。
「姉が、麗菜が危篤なんだ」