段々と今朝から強まる鈍い頭痛を誤魔化すように私はゆるゆると頭を左右に振った。

昼に飲んだ薬の効き目が遅いように感じる。

身体中が熱く怠くなってきた。

どうやら頭痛に加えて発熱も始まってしまったようだ。

「はぁ、」

立っていることすら辛くなってきた。

私は後ろの壁に寄りかかって深い溜息をついた。

「てち」

唐突に頭上から私を呼ぶ声が聞こえて顔を上げると、思いつめた表情で立ち尽くす理佐がいた。

「あ、理…どうしたの?」

「ねえ、私のこと嫌いなの?」

「は?」

「だって今だって名前呼ぶのやめたじゃん。」

「意味分かんない」

何を言い出すのかと思えば、私が今一番悩んでいることだった。

すぐに答えを出すのは難しそうだと思い、私は彼女から離れようと壁から身体を離し姿勢を整えた。

「待って」

そう言って彼女に手を強く掴まれた。

驚き、咄嗟に振り返った瞬間に目眩がして理佐の顔がぼやけて見えた。

それとともに周りの景色もぐるぐると回りだす。

ここで倒れるわけにはいかないと思い、その手を振り切って私は前に進む。

「ね、ねえ待ってよ。私なんか悪いことした?」

ズキズキと、痛みが増していく。

「ねえ、てちってば!」

理佐が再び私の手を握ったのと、頭痛の痛みが最高点に届いたのは殆ど同時だった。

「っ、」

痛みに耐えるように目を瞑った瞬間にフッと全身の力が抜けて、そのまま前のめりに地面に突っ込み、身体中に鈍い痛みが襲った。

ひんやりとした床が私の熱を溶かしていくようで、ほんの少しだけ気持ちがいい。

「てち?!」


理佐の悲鳴が遠くの方から聞こえる。

名前を、呼びたくないわけではない。

いつからか、理佐のことを好きだと気づいたその瞬間から名前を呼ぶという行為が照れくさくなってしまったのだ。

しかしそれを声にするほどの体力は、もう私には残っていなかった。