「まだ出れないっぽい。」

委員長の声に彼女は、

「はあ、」

と小さなため息を吐いて、残念そうにくたりと少しだけ私に寄りかかる。

久しぶりだね、私に甘えてくるなんて。

彼女はあくびを押し殺した。

私はあまりの愛おしさに撫でたい気持ちを必死に抑えて、

「眠たいねえ」

なんてそっと彼女に重みをかけ返す。



ふと、右肩に重みを感じる。

耐えられずに眠ってしまったみたい。

規則正しい寝息がふわりと私の髪を揺らす。

そっと寝顔を眺める。

昔のままだ、

長い睫毛も、ぷにぷにのほっぺも、少しだけ開いてる唇も。

少しだけ胸が弾む 。

すっと指で彼女の髪をはらった。

前髪伸びたよね、切った方が可愛いのに。

でも絶対言わない、拗ねるから。

そっとなぞるようにして唇を撫でる。

「んー、」

…あ、やっちゃった?

空腹と寝起きの彼女ほど怖いものは無い。

少しだけ身構えた私をよそに、彼女はむにゃむにゃと口を動かした。

さっきよりも深い眠りについたみたい。

起こさなくて良かったあ。




彼女は優しい。

もし私が眠くなったら、そっと肩を貸してくれるの。

だから、今はお互いさま。

私はそっと肩を傾けて、彼女の頭に触れるか触れないかくらいに優しく、自分の頭を乗せる。

お日様みたいに暖かな良い匂い。

今彼女は、どんな夢を見てるのだろう。



あまりに彼女を想ってしまう自分にブレーキをかけていた時期があった。

廊下ですれ違っても知らん振り。

学校も別々で行った。

新しい制服を着た彼女はとても初々しくて。

似合ってるね、かわいいじゃん。って、すぐにでも言いたかった。

でも、もっと好きになってしまう自分を制止することで精一杯だった。

少し、いや、とっても寂しかった。

だけど私をちらりと見て、少しだけ唇をとんがらせる彼女にとてつもなく満たされる自分がいた。


そして、痛感してしまった。

やっぱり私の人生にあなたがいないなんて、考えられない。

放課後のたわいないことも、予想だにしなかったぶつかり合いも、ぜんぶ。

映画に出てきたゾンビに似てるって言ったら、ぷいと顔を逸らして少しだけ御機嫌斜めになったの。

覚えてるかな?

可愛くて思わず弄っちゃった。

あとね。

お腹が空くと、とんでもなく不機嫌になるの。

ふりかけの食べ方をよく知らない。


もう、全部思い出話になっちゃうんだ。

懐かしい、あれもこれもきらきらしてる。


今できることなら、もっとたくさん抱きしめてあげたい。

いっぱい甘やかして、話を聞いて、褒めてあげて…

いや、一緒にいてくれるだけでいい。

ただ、それだけでいいの。



「ねえ、」



彼女はぴくりと、私の声に驚いたように身を縮めた。

私は彼女の顔を覗き込むようにして首を傾ける。

寝惚け眼でじっと私のことを見つめる彼女。

寝起きでぼーっとしてる頭なりに一生懸命、私の話を聞いてくれるみたい。



彼女の優しさに触れるたびに、泣きたくなる。

なんで、なんで、この子が?

昔からね、危なっかしいなって思ってたの。

ふとした表情だったり、消えてしまいそうなくらい透明な佇まいだったり。

あ、あと、おっちょこちょいだしね。

 私がいなかったら、危ないだろうなあ…って

気づいてたのに。


まさか、本当に消えちゃうなんて。


そしてこれは、神様から与えられた私への使命なの。
 

葉山ゆずきを救うこと。


でも、もう無理なのかな。

これで何回めだろう。

ふと気がつくと、私の視線の先に彼女はもういない。

今度こそ今度こそ…

そう思って何回も繰り返してきた。

もう無理なのかな。

そう思って諦めようとしても、

彼女はいつもみたいにきっと微笑むの。

「みこ、」

って。

そういうところも好き。

名前を呼ばれるだけで私の人生に色が付く。

とんでもなく愛おしくて、少しお馬鹿で、たまにカッコよくて。


今度こそ、彼女を救いたい。

でも、どうしても。

無理だったら、無理なんだったら、


…こんなこと言ったら怒るかな?



「ねえ、ゆずき。」


「私、ゆずきとなら死 ねるよ?」














残酷な観客達のてちねる(ゆずみこ?)

ねるがてちを助けるために永遠にループし続けるって言う話でしたよね?(すっとぼけ)