見上げると青い空、見下ろすと一面に広がる若々しい緑。
どこかの校舎の屋上に、彼女と二人きり。
彼女は気持ちよさそうに伸びをして、全身で風を感じていた。
一歩、もう一歩と歩みを進める。
進むスピードを緩めることなく歩み続ける彼女になんだか不安になって、私は思わず彼女の腕を掴んだ。
「どうしたの?」
「危ない、から」
「意外と低いからね、ここ」
そんな私の心配など気にしていないかのように彼女は眼前に広がる緑を指差した。
「でも落ちたら痛いよ」
「だね。」
全く、怖いもの知らずなのもいい加減にしてほしいが、そこが彼女の魅力でもある。
ふわりと微笑む彼女に安心して私はゆるりと掴んでいた手を緩めた。
しかしその途端彼女は走り出して、ぴょんと手すりを乗り越えた。
「ね、ねえ!!!」
「心配しすぎだよ」
ケロリとした表情でそう言って彼女は生徒を守る気が無い、腰ほどの高さの手すりに寄りかかるようにして座った。
彼女を追って近づいてみると、確かに手すりの奥にも人が座れるほどの奥行きがあった。
私も彼女の隣に座ろうかとも思ったが、高い所がそんなに得意では無いので手すりの手前にそろそろと座り込んだ。
「ぴっぴ、もしかして高い所ニガテ?」
「てちが珍しいんだよ。本当に落ちそうだもん、ここ」
一体何か可笑しいのか、そんな私を見てケラケラと笑う。
彼女の笑いが収まってしばらく経った後。
不意に彼女がこちらを向いた。
先ほどの明るさとは一変、儚さを感じさせる神妙な面持ちだった。
「ねえ、人ってなんで生きてるんだと思う?」
私は彼女がなぜそんな問いを投げかけるのか、と少し困惑した。
「…分かんない」
「必要とされてるからだよ。苦しいことや悲しいことも、あなたさえ居ればいいって言われるだけで全部吹き飛んじゃう。認めて、認められ続けてなんとか生きてるの。」
彼女にしては、大人びた口調だった。
「…ねえ、てちはいなくなったりしないよね?」
不意に、消えてしまいそうな、そんな得もいえぬ不安が私を襲った。
「ぴっぴがいるから、大丈夫だよ」
そう笑って彼女は再び屋上からの景色を眺めていた。
そんな彼女の背中は、なんだかいつもより小さく見えた。
_
「…あ、寝てた」
急いでよだれを拭って私は突っ伏していた彼女のベッドから顔を上げた。
随分と、リアルな夢を見た。気がする。
てちなら本当に手すりを乗り越えそうだ、と苦笑して彼女を見やる。
「…辛そう」
汗を冷たいタオルで拭いて、そっと頭を撫でる。すると、
「ううぅ、」
苦しそうに呻いて、彼女は半分瞼を開いた。
「てち、水飲むよね」
コップの中身は先程全て飲ませて空なのだ、水よりスポドリの方がいいかな。
ぶつぶつと独りごちながら立ち上がろうとすると、私の腕が突然彼女によって、がっしりと掴まれた。
そして要らない、と言いたげにゆるゆると首を振る彼女を見て、私は再びベッドの側に座り込む。
…泣いてる?
力無く閉じられた彼女の目から涙が流れて筋を作っている。
私は慌ててそれを自分の袖で拭ってあげた。
「嫌だ嫌だ嫌だ、置いていかないで、」
私の手を掴む力が先程よりも強くなる。
うわごとには聞こえなかった。
「…ごめん」
卒業を決めてみんなから離れてしまう、そんな決心をした私にはどうすることも出来ず、ただ謝るしかなかった。
了
なんかリクエストありますか?
てち×メンバーになってしまいますが、
もしありましたら、いつでもコメントください、!