「、?」
突然冷たい水飛沫が顔にかかって、私は熱で重たい瞼で瞬きを繰り返した。
「あ、友梨奈ちゃん、ごめんね。」
声の元を辿ると、ポタポタと水の滴るタオルを困ったように持て余している梨加がいた。
「ぺーちゃん、なんで、」
「友梨奈ちゃん、フラフラだったから。私の家来る?って聞いたらうん、って言って、それで。」
全く覚えていない。
よく見ると私が今寝ているこのベッドもこの部屋も、どうやら持ち主は梨加のようだ。
「ごめん、すぐ帰るね」
それにしてもどうしてこんなに具合が悪いのだろうか。怠くて起き上がることさえままならない。
「待って、私に看病させて。ね?」
そう言って今度はボウルの中でしっかりと絞られたタオルが私の額に置かれた。
「気持ちいい」
「ふふ、良かった。ね、なんか食べる?」
正直言って食欲は無いが梨加のキラキラとした顔を見ると断りにくくなってしまった。
「…食べたい」
「おかゆ、作ってくるね」
…そういえば、ぺーちゃんって料理出来たっけ。
_
「友梨奈ちゃん…」
名前を呼ばれて私は暗闇から意識を浮上させた。
「、どうしたの」
「なんかお餅になっちゃった」
先程よりも重い頭を動かして梨加の方を見やると、でろんとした白い物体を箸で掬っていた。
なんで米が餅になるんだろうか…
「なんならお餅にしちゃおっか。焼いてくる!」
「え、待っ…」
行ってしまった。
私、今お餅食べれる程元気じゃないんだけどなぁ。
しん、とした部屋に私一人だけ。
こほこほと溢れる咳が頭に響く。
「うぅ、頭痛い…」
もぞもぞと楽な体勢を探し、丸まるようにして瞼を閉じた。
看病してくれることは有難いけれど、ただ側に居てくれるだけで充分なのに。
昔から高熱が出るとなんだか弱気になって涙が出てきてしまう。
「もう嫌、」
人の家で寝かせてもらってる身なのだ。
これ以上迷惑をかける訳にはいかない。
私は寝返りを打って、もう一度眠ることに専念した。
_
「きゃああ!!!」
尋常ではない梨加の悲鳴で再び浅い眠りから目覚めた。
「…ぺーちゃん、?」
梨加のあんなに大きな声は初めて聞いた。
考えるより先に私はベッドから飛び起き、彼女のいる台所へと向かっていた。
「なんで、」
餅が、燃えている。
側にあるキッチンペーパーにも火が燃え移って、ちょっとしたボヤになっていた。
「ひゃあ…」
「ぺーちゃん離れて!」
ボウルに入れた水をぺちゃぺちゃとかけて消火を試みる梨加を手で制し、私は大きめのタオルを水で濡らし火の元へ覆い被せた。
ぷしゃあ…。
何回か繰り返すうちに、餅が音を立てて萎んでいった。
「ふう、」
「ほんとにありがとう、友梨奈ちゃん」
水の入ったボウルを両手で抱えてシュンとしている梨加は、なんだか悪戯がバレてしまった子どものようで。
本当に、私より年上なのだろうか。
そんな彼女を愛おしく思う自分に少し驚いた。
「別に大丈夫だよ」
ぐにゃり。
「あ、れ、」
少し無理をし過ぎたようで、酷い眩暈がする。
見えている景色が歪んで、私は咄嗟にテーブルに手をついた。
「友梨奈ちゃん…?」
心配そうな顔をした梨加があたふたしている。
「大丈夫、だから」
ぐにゃり。
再び視界が歪む。
ああ、もう耐えられない。
とうとう足に力が入らなくなり、ガクリと地面に膝をついたと同時に、目の前が真っ暗になってしまった。
「…ちゃん…よう…あ…ねん…」
途切れ途切れに梨加の涙声が聞こえてくるが、襲いくる吐き気と眠気に耐えられず、それもプツリと途絶えた。