何が、起きたんだろうか。
状況が読み込めず、私は茫然と先程まで彼女がいた場所に立ち止まっていると、理佐がそっと私に近づいて言った。
「てち、心配だよね」
「理佐、どうしよう。てちものすごく顔色悪かった」
「愛佳とよね、ずーみんが抜けること、てちにとってはかなり辛いことだよね。多分我慢してるんだと思う。」
そうだよね。
もっと早く気づいてあげればよかった。
「私、行ってくる」
「うん。マネージャーには私が適当に言っておくよ」
「ありがとう」
そう理佐に言い残し、私はてちの後を追った。
「てち?」
呼び鈴を何回鳴らしても返事が無い。
「帰ってないのかな」
もしかして、寮に帰っただろうという私の予想が外れてしまったのだろうかと不安になりドアノブを回してみた。
…ガチャリ
開い、た。
「てち、入るよ?…って、え?」
玄関にぐったりと横たわっている彼女。
私は慌てて彼女の身体を抱き起こした。
熱は、無い。
しかし、たくさん泣いたのか頬が涙でひんやりと濡れていた。
「ね、る?」
そう掠れた声で呟いて私の顔を見た瞬間、彼女はヒューヒューと肩で苦しそうに息をし始めた。
私に、怯えてるの?
「てち、ゆっくり息吐いて、そう。」
震えながらも深呼吸を繰り返す彼女を連れてベッドへと向かう。
ベッドは、皺一つなく不自然なくらいに綺麗だった。
大きなベッドの所為か、彼女がいつもよりも小さく、頼りなげに見えてしまう。
今、手を離すと彼女はこのまま居なくなってしまうのでは無いか。
根拠の無い理由だったが、このまま去ってはいけないような気がした。
私も彼女の隣に横たわり、彼女の横顔を見やる。
薄く目を閉じているが、眠ってはいないだろうなと直感した。
「てち、私のこと怖い?」
先程の怯えた表情、過呼吸。
どれをとっても、怯えて避けられているようで確かめずにはいられなかった。
彼女はゆっくりと口を開いた。
「怖い。ねるまでいなくなっちゃうんじゃないか、って。」
「てち、」
「私、毎日考えてたんだ。あのメンバーで過ごした時間はもう返ってこないんだな。私がもっと相談にのって、動いていればこんなことにはならなかったのかも、って。」
そんなことを考えていたなんて。
どうしていつもこの子にたくさんのことを背負わせてしまうのだろうか。
「てち、違うよ?愛佳とよねとずーみんは、自分の新しい道を見つけたから。欅坂に入って、私たちと出会って新しい自分を見つけることが出来たの。てちの所為なんかじゃない。」
「…それに、私は何があってもてちから離れたりしないから。」
彼女の震えが、止まった。
伏せられていた目が、ぱちぱちと瞬いて驚いたような眼差しがこちらに向けられる。
「絶対に、離れたりせん。約束する。」
「ねるの方言、久し振りに聞いた」
「ああ、ごめん。直そうと思ってるんだけど中々直らんね」
「今のままでいいよ」
たった一言なのに、なぜ彼女はこんなにも人の心を暖めることができるのだろうか。
「うん、」
こんなに優しくて、甘え下手で。
この子を置いて欅を去るなんて、そんなことできるはずがない。
改めて、そう実感した。