寒い季節が過ぎ去った、三月の下旬。

桜が咲き始めたとニュースでよく聞くようになった。

春になって暖かくなり、あれからてちの体調も順調に回復してきたある日。

「ねる。桜、見に行かない?」

先程からベットの上に座り、頬を桜色に染めてそわそわしていると思ったらそういうことか。

「もう春だし、私も見に行きたいなあ。でもてち、まだ体調が万全じゃないんじゃない?」

すると、待ってましたというようにてちが自慢げに外出許可書を掲げる。

「病院の広場なら良いって。大広場に大きな桜があるの。ねえ、行こう?」

外出許可書なのに、外出できる範囲が狭すぎるということに少し心が痛くなるのを感じたが、てちの甘えきった表情を見ると、とても断りきれない、可愛すぎるのだ。

全く、こういう時ばっかり甘えるんだから。

「じゃあ、今日はこれから雨だし、次てちと私の予定が空くのは確か来週の月曜だよね。その日にしようよ」

するとてちはこれでもかというくらい目を輝かせる。

最初と比べて随分と色んな表情を見せてくれるようになったな。



ふわり。春の風が病室のカーテンを揺らす。

私は幸せ者だ。