1913年(大正2年)に阪急電鉄(当初は箕面有馬電気鉄道)の創始者小林一三が温泉場の客寄せとして宝塚唱歌隊を結成してからとうとう100年を達成したこの年は、数々の記念式典や記念行事そして記念公演に終始した1年となった。尚一本立てを除いてレビュー・ショーのタイトルは、90周年の際と同様に全て“宝塚/タカラヅカ/TAKARAZUKA”がついたものとなった。

 

 先ずこの年の初舞台生である100期生からは、95期生以来の多くのスターが誕生している。先ず男役では花組聖乃あすかと月組風間柚乃の2人を先頭に星組極美慎、花組一之瀬航季、退団予定ではあるが宙組優希しおん、雪組眞ノ宮るい等に、退団者には元月組蘭尚樹もいた。娘役では退団予定ではあるが宙組から花組トップの星風まどか、元花組トップ華優希、元花組音くり寿、雪組から星組の桜庭舞等がいたが、現役では宙組天彩峰里や月組桃歌雪等が活躍中。

 

 100周年の冒頭を飾ったのは1~2月星組「眠らない男・ナポレオン」は、柚希礼音のナポレオンに夢咲ねねのジョセフィーヌという配役で、2007年花組「アデュー・マルセイユ」以来のオリジナルとなった小池修一郎作・演出作品。更に、音楽をフランスからジェラール・プレスギュルヴィックが担当し、”宝塚発世界へ”と気合が入った作品だった。かつて同じくナポレオンとジョセフィーヌを描いた1985年花組「愛あれば命は永遠に」という作品があったが、これはナポレオン高汐巴とジョセフィーヌ若葉ひろみに加えて、大浦みずきが演じたジョセフィーヌの愛人イポリット・シャルル大尉の三角関係がストーリーの肝だった。しかし、今回はナポレオンの栄光の軌跡を中心に据え、そこにジョセフィーヌとの愛と葛藤が絡む物語となった。

 

 2~3月花組「ラスト・タイクーン/TAKARAZUKA∞夢眩」は蘭寿とむの退団公演となった。「ラスト」は「ギャッツビー」の作者として有名なフィッツジェラルドの遺作となった未完の長編小説の舞台化で、新公で柚香光が初主演した。又、演出家生田大和の大劇場デビュー作品。3~4月月組「宝塚をどり/明日への指針 -センチュリー号の航海日誌-/TAKARAZUKA 花詩集100!!」は3本立ての公演となった。「をどり」の大劇場公演のみ花組蘭寿とむ・蘭乃はな、雪組壮一帆・愛加あゆ、星組柚希・夢咲、宙組凰稀かなめ・実咲凛音の各組トップコンビが特別出演した。「花詩集100」では1993年月組「ブロードウェイボーイス」の振付をトミー・チューンと共に担当したジェフ・カルフーンが、衣装をフランス人デザイナー、アントワーヌ・クルックが担当したことも話題となった。そのカルフーン氏が担当した「黒きバラ」の場面では、衣装が黒の皮服に黒のポリススタイルの帽子と何とも危ない雰囲気で、しかも龍のねちっこい癖のある歌が絡むとかなりヤバい雰囲気になってしまい、他の場面がトリコロールカラーで典型的な宝塚パターンであっただけにこれが100周年で本当に大丈夫?と思ってしまったのだった。又、一応美弥るりかと凪七瑠海が二番手格だったのだが、全体を見るとその下に位置付けられているはずの珠城りょうの方が目立っていたように感じた。また公演中の4月5日に創立100周年記念式典が執り行われ約1,500名のOGが参加し、宝塚の町の其処ここで同窓会が行われたとか。

 

 5~6月宙組「ベルサイユのばら-オスカル編-」では凰稀オスカルに対して、アンドレ朝夏まなと・緒月遠麻、ジョローデル七海ひろき・朝夏、アラン緒月・七海という二番格グループWキャストとなったが、凰稀は榛名由梨以来本公演でオスカルとバトラーの両役を演じた2人目のトップとなった。尚、宙組はこの後8~9月の朝夏主演の全国ツアーで「フェルゼンとアントワネット編」を上演しており、朝夏フェルゼンに実咲凛音アントワネットと七海オスカルというキャストとなった。6~7月雪組「一夢庵風流記 前田慶次/My Dream TAKARAZUKA」は早くも壮一帆と愛加あゆに加えて未涼亜希の退団公演となった。早霧せいなはようやく二番手の男役を演じることができたと思ったら、もうトップの退団という事になってしまった。順番からすると当然早霧が次の雪組トップという事になっていたのだが、個人的には正直この時になっても未だ早霧に不安感を持っていた。

 

 7~8月星組「The Lost Glory -美しき幻影-/パッショネイト宝塚!」の「The Last」は轟悠が2008年宙組「黎明の風」以来本公演に登場するシェイクスピアの「オセロ」を下敷きにしたストーリーで、柚希が「オセロ」におけるイアーゴーに当たる悪役を演じた。8~9月花組「エリザベート」は新トップ明日海りおの披露公演となった。相手役の蘭乃はなはこれが退団公演となったのだが、蘭乃が蘭寿と同時ではなくこの公演で退団することにイチャモンを付ける声もあった。個人的には宝塚で何時、何をもって辞めるかは基本本人の意思に拠るものだし、それに対して匿名でケチを付けるのも卑怯な話だと思っている。又、ルキーニを演じた望海風斗が公演後に雪組へ組替えとなり、結局明日海との差し替え人事となった。9~11月月組「PUCK/CRYSTAL TAKARAZUKA-イメージの結晶-」の「PUCK」は、涼風真世主演の1992年月組以来の再演。当時人間ならざるものを最も得意としていた涼風の代表作。初演で当時二番手だった天海祐希の役ボビーを演じたのが珠城りょうで一瞬んん⁉と思ったのだけど、7~8月日本青年館・ドラマシティ公演月組「THE KINGDOM」が凪七瑠海・美弥るりかのW主演作だったこともあり、役柄に合わせてのキャストかと当時は思っていた。新公では朝美絢が初主演となった。又この公演後に鳳月杏が花組へ組替えとなった。11~12月宙組「白夜の誓い/PHOENIX 宝塚!!」が凰稀かなめの退団公演となり、創立100周年の最後を飾る作品となった。この作品で朝夏まなとが漸く単独二番手として線上表記され、桜木みなとが新公で初主演となった。又この公演後に七海ひろきが星組へ組替えとなった。

 

 バウホールでは三木章夫作・演出によるバウショーケース第2弾として、前年12月の花組に続き1月月組「New Wave! -月-」が美弥るりか、宇月颯、鳳月杏、珠城りょうら若手メンバーによって上演された。5月星組「かもめ」で礼真琴、6月花組「ノクターン」で柚香光、9月「SANCTUARY」で愛月ひかる、10~11月「パルムの僧院」彩風咲奈、12月星組「アルカサル」で麻央侑希と十碧れいやが夫々初主演を飾った。

 

 梅田芸術劇場1月月組「風と共に去りぬ」では専科轟悠に対して、スカーレットⅠ龍真咲、Ⅱ凪七瑠海、ベル光月るうとメラニー愛希れいか以外の主要娘役の役をすべて男役で上演した。シアタードラマシティ2月宙組「翼ある人びと」は上田久美子作・演出、朝夏まなと主演で上演。4月雪組「心中・恋の大和路」は壮一帆と愛加あゆで1998年以来16年振りの再演。東急シアターオーブ5~6月星組「太陽王〜ル・ロワ・ソレイユ〜」はフランスで大ヒットのフレンチ・ロック・ミュージカル。日生劇場10月雪組「伯爵令嬢」は早霧せいな・咲妃みゆの新トップコンビ披露。

 

 その他、100周年ということでかこの年は「ベルばら」の大盤振る舞いが続いた。「ベルばら」は先ず本公演で宙組「オスカル編」、全国ツアーで3月雪組「オスカルとアンドレ編」、中日劇場6月花組「フェルゼンとアントワネット編」は明日海りおのトップ披露。全国ツアー8~9月宙組「フェルゼンとマリーアントワネット編」。

 

 100周年記念に乗っかってTVでも特別番組が放送されたが、その中で久しぶりにお顔を拝見した尚すみれの男っぷりに驚いてしまった。

 

 この年は100周年記念という大きな節目の年ということで、花組蘭寿とむ、雪組壮一帆・愛加あゆ、宙組凰稀かなめが退団し、花組明日海りお、雪組早霧せいな・咲妃みゆの新トップが誕生と、3組でトップ交代が発生した。また各組で若手の台頭が目立つ年ともなった。