この年の96期生については色々言われているが、自分としては当事者でもなくネット上の話しか知らないのでその件については触れないことにする。現役生で和希そらが活躍しているが、先頃退団を発表したため男役でのトップは残念ながら生まれそうにない。他に月組に夢奈瑠音、春海ゆう、星組朝水りょうが現役で活躍中。退団者では花組の優波慧、宙組には先頃退団した紫藤りゅう、ダンサー秋音光等がいた。娘役では花組の花乃まりあ、雪組の咲妃みゆと朝月希和、星組の綺咲愛里と74期、76期以来となる4人の娘役トップが誕生した。その他も一時は音月桂の相手役候補だった夢華あみ、音咲いつき、瀬戸内美八の姪瀬戸花まり、叶羽時等が活躍した。色々と言われはしたが、特に娘役に才能ある人材が揃った年次だったと言うことができるだろう。

 

 1月星組「ハプスブルグの宝剣/BOLERO」では前年3期下の真風涼帆が新公の連続主演をした後、ラストチャンスで美弥るりかが主演となりその後存在感を増していくこととなったが、紅に続くことができず月組2番手での退団となったのは残念だった。2~3月雪組「ソルフェリーの夜明け/Carnevale睡夢」で二番手だった彩吹真央が退団となり、2007年世界陸上を機に水夏希、彩吹、音月桂、彩那音、凰稀かなめの5人で結成されたAQUA5の活動が完全に終了した。(既に凰稀は前年に星組に組替えとなっていたが。)彩吹は花組時代から二番手羽根を背負いながら、結局トップになることなく退団という事態に至り、これがファンの間で大いなる議論を呼ぶこととなった。特に彩吹が花組から組替えとなった後に二番手となった真飛聖が、そのままトップに昇格していたこともあって、特に彩吹のファンからはさんざん期待させながら…と劇団に対しての不満が爆発した。この騒動が切掛けなのか、その後劇団は順番を付けながら羽根を背負わせない所謂“番手ぼかし”という手を使ってファンをヤキモキさせることとなる。因みにショー「睡夢」は演出家稲葉大地の大劇場デビュー作だった。

 

 3~4月花組「虞美人」は1951年(S26年)初演時に春日野八千代主演で大ヒットとなった宝塚初の一本立て作品で、1974年(S49年)花組・星組合同60周年記念公演以来の再演となり、桜乃彩音がこれで退団となった。4~5月月組「THE SCARLET PIMPERNEL」が新トップ霧矢大夢大劇場披露公演で、星組から組替えとなった蒼乃夕妃とコンビを組んだ。私見になるが当時蒼乃はダンサーというイメージがあって、歌の霧矢と組ませるのは前任のダンスの瀬奈じゅんと歌の彩乃かなみコンビの逆パターンか?歌手とダンサーのコンビを何故に続けて?と勝手に考えていたものだった。二番手に龍真咲、三番手に明日海りおと並んだが実質的にはほぼ同格のW二番手で、2人はショーブラン役でWキャストとなっていた。しかしチケットは明日海ショーブランの公演から一気に売る切れたそうな。またこの新公で当時研3だった珠城りょうが初主演となった。

 

 5~6月宙組「TRAFALGAR/ファンキー・サンシャイン」では新公に当時研4の蒼羽りくが主演した。蒼羽はこの後2012年と13年と計3回新公の主演を務めたが、新公卒業後は何となく伸び悩むという宙組ジンクスに嵌ってしまった。6~7月雪組「ロジェ/ロック・オン!」は水夏希の退団公演となったのだが、水の退団発表時に演目が未発表となっていた。先に退団した彩吹の二番手退団騒動もあって、劇団は生徒の管理を手抜きしているのではと批判の声が再度上がることとなった。7~8月花組「麗しのサブリナ/EXCITER!!」から真飛の相手役に月組から組替えとなっていた蘭乃はなが選ばれた。蘭乃は宙組のすみれ乃麗と双子姉妹ということで見た目はそっくりだったし、すみれ乃も前宙組公演「TRAFALGAR」新公でヒロイン役だったけれど、何か違いがったからか、それともタイミングの差があって蘭乃が真飛の新しい相手役ということになったのだろう。「EXCITER!!」は前年上演したばかりのショーで、翌年直ぐに大劇場で再演されるのは非常に珍しいがそれほど初演が好評だったということ。

 

 9~10月月組「ジプシー男爵/Rhapsodic Moon」。10~11月星組「宝塚花の踊り絵巻 -秋の踊り-/愛と青春の旅立ち」の「愛と」はリチャード・ギア主演のハリウッド映画の舞台化。しかし主人公ザックを柚希礼音が演じるのは良いとして、二番手凰稀かなめが鬼軍曹フォーリー役という配役には驚いた。映画のルイス・ゴセットJrがオスカーの助演男優賞を受賞した役とは言え、黒人男性でしかもハゲ頭!一体どうするのかと思ったら、宝塚的に上手く処理して安心した。因みに映画の原題は“An Officer and a Gentleman”で、直訳するれば「将校と紳士」と何とも味気ない。米映画ではこの様に原題がシンプル過ぎてそっけなく感じられることが時々あって、いかに観客の興味を呼び起こす邦題を付けるかが配給会社の腕の見せ所でもある。但し「愛と」で始まる邦題は「愛と哀しみのボレロ」とか「愛と喝采の日々」とかピンからキリまであるなかで、この「愛と青春の旅立ち」はストーリーにあって上出来の部類だったと思う。因みにキリのなかで今も記憶に残るのは「愛と憎しみのデカン高原」‼。とにかく、この頃から星組のイケイケ振りが顕著になって気がするが、翌年12年3月「天使のはしご」公演後に夢乃聖夏が雪組に組替えとなった。

 

 11~12月宙組「誰がために鐘は鳴る」は1978年(S53)星組で上演されたものの再演。初演では鳳蘭・遥くららのコンビに加えて、大路三千緒、美吉佐久子、沖ゆき子といった当時の演劇専科の重鎮が重厚な演技脇を固めていたのが思い出された。今回は大空祐飛と野々すみ花のコンビで健闘したようだが、先の大和悠河主演での「バレンシアの熱い花」再演と同様に、初演の印象が強いとどうしても比べてしまって再演に分が悪くなるのは見る方の勝手な思い込みなのだろう。この新公で愛月ひかるが初主演を飾り、以降2011年、12年13年と計4回主演し、いよいよ初の宙組生え抜きトップの誕生かと期待が寄せられることになる。

 

 バウホールでは朝夏まなと主演で、1月花組「BUND/NEON 上海」と11月花組「CODE HERO/コード・ヒーロー」の2本が上演された。3月凪七瑠海主演の宙組「Je Chante」は演出家原田諒のデビュー作だった。7~8月ドラマシティと博多座で星組による初のフレンチ・ロックミュージカル「ロミオとジュリエット」が初演され、演出小池修一郎によって新たに作られたダンサー役“愛”を演じた当時研2の礼真琴が注目を浴びた。

 

 この年は雪組水夏希・白羽ゆりコンビ退団と花組で桜乃彩音から蘭乃はなへの娘役トップ交代があったが、前年に比べれば平穏かつ安定した一年となった。