この年が初舞台となった82期生は、94年の音楽学校入学試験時の競争率が42倍となって、史上最高倍率の競争を勝ち抜いた学年となった。音楽学校に主席入学した蘭寿とむはそのまま主席で入団して花組のトップとなり、その蘭寿の二番手を務めた壮一帆も苦労の末に雪組のトップとなった。紺野まひるは雪組娘役トップとなったが、相手役絵麻緒ゆうのワン切に巻き込まれた形で1作のみとなった。男役では月組三番手で退団後現在はバラエティで活躍している遼河はるひ、星組別格二番手だった涼紫央、t.a.p(タカラヅカ・エンジェル・プロジェクト)メンバーに抜擢された華宮あいり、速水リキ、月船さらら、月丘七央。ハウステンボス歌劇団の創立メンバーとなり今も"優雅"として活躍を続けている研ルイス、TVオーディション番組で活躍した千早真永等がいた。娘役には現花組組長の美風舞良、女優宮本真希として映画「おもちゃ」に主演した斐貴きら、歌手坂本九の娘舞坂ゆき子、西条三恵、沢樹くるみ、叶千佳と、多士済々な人材がそろった学年となった。

 

 1~2月花組「花は花なり/ハイペリオン」の「花は花」は、春日野八千代、松本悠里を始めとする専科の踊り手を揃えて上演された。2~3月雪組「エリザベート」は一路真輝の退団公演だったが、当時は未だ見慣れなかったウィーン・ミュージカル、タイトルロールで本来の主役エリザベート皇妃を花總まりが演じる一方で、オリジナルでは脇役の死“トート”を主役として一路が演じるという事に、当初はかなり不安を感じたファンが多かった。しかし幕を開けてみれば、“死をこんなに魅惑的に見せるのはどんなものか…”、と言われるほどの評判となって現在宝塚歌劇団を代表する演目の一つとなり、潤色・演出の小池修一郎もその後宝塚歌劇団のみならず日本ミュージカル界の巨匠として知られることとなった。初演で轟悠が演じたアナキスト・ルキーニ役は、後に演じれば後にトップになるという出世役のジンクスが言われたが、残念ながら2016年宙組版で演じた愛月ひかるの二番手退団で途切れてしまった。2000年東宝版「エリザベート」初演に際しては一路がエリザベート役で主演し、海外ミュージカルの宝塚初演から外部上演というビジネスモデルが確立されることとなり、また「エリザベート」を切っ掛けとして、ウイーン・ミュージカルが日本でも一般に知られるようになった。

 

 4~5月月組「CAN CAN/マンハッタン不夜城」で、新トップコンビ久世星佳・風花舞の大劇場披露となり、二番手に真琴つばさ、三番手姿月あさとという布陣でのスタートとなった。涼風真世・天海祐希と華やかなトップが続いた後に、それまでどちらかと言えば二枚目役よりも仇役で存在感を発揮するタイプだった久世がトップになったのは、かつて同じ月組で榛名由梨・大地真央の後でトップになった剣幸と同様に、実力者であるがゆえに却って地味に見えてしまうというハンディキャップを背負ったようなものだった。

 

 5~6月星組「二人だけが悪」は麻路さきの最も得意とする、ニヒル&クール路線ど真ん中の作品だった。7~8月花組「ハウ・トゥー・サクシード」は、ブロードウェイ・ミュージカル「努力しないで出世する方法」の宝塚版。真矢みきの明るいキャラクターが生きた作品となったが、純名里沙がこれを持って退団となった。8~9月雪組「虹のナターシャ/La Jeunesse!」は久世・麻路と同期の新トップ高嶺ふぶきの披露公演で、相手役に引き続き花總まり、二番手轟悠、三番手和央ようかという体制となった。麻路・久世と同期の高嶺は茶色の瞳が印象的で、男役が女を演じる際によく見られる“女形感”を全く感じさせずごく自然に女役がこなせる美貌だったが、それ故の線の細さも感じさせてしまうのが個人的には気になっていた。尚「Jeunesse」はロマンチック・レビュー第10弾だった。

 

 

 10~11月月組「チェーザレ・ボルジア」はルネサンス期悪名高きボルジア家の物語で、久世星佳の個性が最も生きるアンチ・ヒーロー物。かつて大浦みずきが上演を希望したが叶わかったとか。風花舞はチェーザレの妹ルクレツィアで、これまた周囲に毒を振りまいたと噂のファム・ファタール。まあ、久世・風花コンビだからこその渋い作品と言えそう。11~12月星組「エリザベート」は麻路さきトートに白城あやかエリザベートで上演された。白城エリザは正に適役と思われたが、麻路トートについては元々ダンスの人で歌唱に関しては今一つという評判だったので不安の声が多く聞こえた。ところが幕を開けてみれば、印象的な手の動きと容姿の良さでトートを見事に表現し、一路真輝と異なるトート像を表現したと評判をとった。また白城はこれが退団公演となった。

 

 通常ならばこれで1年の上演スケジュールは完了なのだが、この年から12月下旬から翌年1997年2月にかけての年またぎのスケジュールとなり、再び月組で久世の退団公演となる「バロンの末裔/グランド・ベル・フォーリー」が上演された。ここら辺の経緯は記憶にないのだが何があったのだろうか?

 

 バウホールでは6月月組「銀ちゃんの恋」はつかこうへいの「蒲田行進曲」の宝塚版。久世と共に妊婦のヒロインを演じた風花や、ヤスを演じた汐風幸の熱演が評判を呼んだ。また檀れいが東京公演で玉美を演じたが、その美貌をかき消すような舞台化粧も注目された。その後現在に至るまで何度か再演を重ねている。

 

 1996年は「エリザベート」の一路真輝退団公演となった雪組初演と星組再演が評判となり、劇団の代表作となる切っ掛けを作った。月組久世星佳・風花舞と高嶺ふぶきが新トップの披露を行い、真矢みきと麻路さきが充実を示した1年となった。